第13話

 ふと、視線を感じてシャーリーは左を向いた。くまのぬいぐるみと視線がかち合った。青いセーターを着た、黄色いくまのぬいぐるみ。

 シャーリーはぬいぐるみを見ながら、ソーダをストローで飲んでいた。

「どうした?」

 と老人がシャーリーに問いかける。

「見られています」

「誰にかな? 誰もいないが……はて」

 女店主は澄ました顔をしている。

 シャーリーはアイスを一口食べてから、椅子から降りてぬいぐるみが置いてある近くの椅子に座り直した。

 じーとくまのぬいぐるみに視線を向ける。

「あなた、喋れますよね? 私と一緒」

「いいよ、熊谷。喋って」

 と女店主はぶっきらぼうにいった。

 くまのぬいぐるみは立ちあがり、腕を伸ばした。

「お、俺はくまたに、よろしく」

「私はシャーリー、よろしくね」

 二人は握手をした。

「おまえ、綺麗だな」

 と、くたまには照れた様子でシャーリーを褒めた。

「ありがとうございます」

 とシャーリーは花が咲いたような微笑みで返した。

 熊谷はさらに照れているみたいだった。

「熊谷が照れることなんてあるんだな」

 とキッチンから青年が顔を出した。

「う、うるせえ!」

 女店主と老人はそのやり取りを聞いて、あはあはと笑っていた。

 そのあと、くまたにとシャーリーは椅子に並んでしばらく話をしていたのであった。

「じゃあね」

 シャーリーは老人に抱かれながら手を振った。

「またな」

 とくまたにも腕を振った。

「よーし、シチューでも作ってみよ」

 シャーリーは本を片手に初めての料理をしてみることにした。

「なんだこれは」

 老人の目の前には紫色のシチューがあった。

「紫のお芋があったから使ってみたんです……」

 シャーリーはもじもじとしながら応えた。

 老人はスプーンで紫のどろどろしたスープをすくい、口に運んだ。

「んー」

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