第12話

「彼はもういくつになるかな」

「もう十五よー」

「年月が経つのは早いものだな」

「ええ」

はいどうぞという言葉と共に出てきたのはクリームソーダだった。

「お月様だ!」

 とシャーリーは感嘆の声をあげた。

 満月のようにほの明るく輝くアイスとエメラルドグリーンの炭酸水。クリームソーダの間にもくもくと雲のようなもやがあった。

「これは?」

「魔法よ」

 と女主人は不敵な笑みでそういった。

 なんと不思議な飲み物なのだろうとシャーリーは思った。

 青年がキッチンからケーキを持ってきて、どうぞとシャーリーの前に置き、キッチンにまた戻っていった。

 目の前に置かれたケーキはなんの変哲もないチーズケーキだった。少し大ぶりなくらいか。

「食べてもいいですか?」

「どうぞ、召し上がれ」

 女店主はシャーリーにウインクをして珈琲を入れ始めた。

 シャーリーは一口サイズにしようとスプーンをケーキに入れる。スプーンはすんなりと皿に当たり、ケーキが壊れてしまったかと思った。シャーリーは驚いた。まるで空氣を分けているみたい。ケーキは確かにそこにあるのに、感触が全く無いのである。

 一切れ口に入れてみた。チーズの風味が全身を駆け巡る。

 シャーリーは老人に天使のような笑顔を見せた。

 食べ進めるとケーキはほろほろと崩れていく。「あっ」繊細に積み上がった積み木が一気に崩れていくように。

 なんと儚い食べ物なんだろう。

このケーキもまるで魔法みたいだとシャーリーは思った。

 旦那様に目を向けると、さも楽しそうににこにことしている。

 いつのまにかケーキはなくなり、皿に残っていたクリームを全て綺麗にすくいとっていた。食べ終わったあと、もうなくなってしまったのかと落胆した。もっと楽しんでいたかたのに。

「おいしかったです、旦那様」

「クリームソーダは飲まないのかい?」

「これはあまりにも幻想的で、いつまでも眺めていたいです」

 老人と女店主は笑っていた。

「アイス食べないと溶けちゃうよ」

 と女店主。

「わかりました」とシャーリーはクリームソーダにも手をつけることにした。

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