第11話

「どこかに電話でもするのですか?」

「おいで」

「はい」

 シャーリーは老人と一緒に電話ボックスの中に入った。戸が閉まって老人が受話器を取り、ダイアルを回すとガラスの外側がマーブル模様になり、うねうねとしだした。

「外の景色が!」

 チン!

 景色はどこかの町のどこかの片隅に変わっていた。

 扉が開き、二人は電話ボックスから出る。

「ここは?」

「人の住む町だよ」

「シャーリーが黙って歩いていると、目立つからね、おいで」

 人形は老人に抱っこされる。

 見慣れない物だらけだった。

 シャーリーは流れる景色を眺めている。

 虹色の瞳がきらきらと輝いていた。

「楽しいかい?」

「はい」

「それは良かった」

 人や建物、動物、植物、アスファルトに川、塀、車や自転車、電柱、ポスト、ずうっと初めて見る物で溢れていた。

「ここだよ」

 それはこじんまりとした喫茶店だった。

 屋根の赤い魔女の風見がくるくると回っていた。

 カラン、カラン

 カウンターの向こう側に女の人が立っている。

「あら、久しぶり」

 女の人は人のいい笑顔を向けてきた。

 老人はニッコリとして、手を振った。

「ここなら動いても大丈夫だよ」

 と老人はいって、シャーリーをカウンターの席に座らせた。

「ずいぶんかわいい子連れてるのね」

「こんにちは」とシャーリーは応える。

「こんにちは」と白い歯を見せながら女主人は返す。

「この子に何かだして貰えるかい」

「わかりました。ケーキでいいかしら」

「任せるよ」

「信也! ケーキ!」

 と女主人はキッチンの方に声をかけた。

「はーい」とキッチンの方から返事が返る。

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