第7話
こぢんまりとした天上の低い簡素な部屋。可愛らしいベッドに、木製の机と椅子。大きな衣装ケース。ここはシャーリーの趣味の部屋だった。
シャーリーはミシン台の前に座っていた。手には出来上がったばかりのメイド服。それを身体に沿わせて鏡の前に立って一回転した。
「じょうできです」
「ふんふんふーんふんふんふーんふんふうふーふふふーん」
野菜がカゴにギュウギュウに詰められている。キッチンは年期が入っていた。くすんだ色のレンガの壁には鍋がかけられていた。薪が積み上げられ、石炭が袋に入っている。炉の近くに火かき棒が置いてある。ぐつぐつとスープが煮えて、良い匂いが漂っていた。
「うん、いい匂い。おいしいそう」
この前は失敗したけれど、旦那様に習ったので、もう、大丈夫。の、はず。
シャーリーは小皿にとったスープに口をつける。
「上手にできたじゃないか」と老人がシャーリーの後ろから声をかけた。
「旦那様に教えていただきましたから」と少し頬を紅くしてシャーリーは応えた。
皿の上にバケット、グラスに水、卓の中央に花、ナプキン、手入れのされたナイフとフォーク、野菜のスープに、ドレッシングのかかったサラダ。
「いやあ、この前はひどかったな」
老人はナプキンを広げながら、おかしそうにいった。
「はじめは、だれでも下手くそって旦那様がいいました」
シャーリーは少しむっとしていう。
「だな、誰もが通る道だ」
「はい」
「どれ、おかわりをもらえるかなシャーリー」
「はい、旦那様。これはなんですか?」
シャーリーは白くまの毛皮のコートを着て、白いふわふわの帽子を被っていた。
雪が降っている。
ちら、ちら、と空から落ちてくる一片の雪の結晶を手の平に受けとめた。
「雪だよ」
「こんな物はいままで、降ってきませんでしたよ?」
「なんでだろうな」
老人は、あたたかな表情を浮かべ白い息を吐いた。
シャーリーは、んーと顎に手をやって、その問いかけを考えた。
「寒くなったから?」
「そうだね、いままでは何が降っていたかな」
「雨です。じゃあ、これは雨が姿を変えたのですか?」
老人はにんまりとした。
「シャーリーは賢いね」
「はい、旦那様に教えてもらってますからね」
老人は声をあげて笑った。
庭の景色はすっかり雪化粧をほどこされている。雪だるまがイノシシの横に座っている。
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