第8話
雪だるまは溶けてしまっていた。
「かわいそうに」
シャーリーは変わり果てた姿を見て、言葉をこぼした。
「冬がきたら、また会えるさ」
「なんで、別れなくてはいけないんですか。ずっといればいいのに」
「生きてるからね、全ては生きてるんだ」
「旦那様みたいにですか?」
「ああ」
「私も?」
「そうだとも、生きてるよ」
シャーリーは老人の脚に抱きついた。
こうしているとあたたかい。
横を見ると海が良く見えた。
そこは館の最上階。煙突型になった部屋で、壁にそって座椅子が設けられ、腰掛けて景色が楽しめるようになっていた。
窓を開け放つと爽やかな風がシャーリーの金髪をなびかせた。
深い青と黄色い花のドレスを着ている。
日がな一日、老人と海を眺めていた。
ゆっくりと日が流れていくのを感じた。
なにも話さずに、ただ、景色を眺めて一緒にいることが、心地良かった。ずっとそうしていたいほどに。
暗くなり、窓を閉めると、ガラスに自分の顔が映り込んでいた。
人形の姿だけが映っている。
一番奥に三面鏡があるだけの部屋。
白銀色の髪の毛、金と青のクジャクのドレス。
一歩、一歩、近づいて行く。鏡の中には黒と薄紫のドレス、バラが飾られた帽子、ダークブラウンの髪、七色の瞳の人形。
右には金髪に赤いベルベッドのドレス、大きいつばの帽子を被った人形。
左には緑色の髪、紫色の生地に白鳥の羽があしらわれたドレスを着た人形。
鏡の中の自分自身と手を合わせた。ひんやりと冷たい、雪みたいだった。
自分の姿は好きだった。旦那様が好いてくれる見た目だから。笑顔の私。旦那様に抱かれている私。談笑している私。寝ている私。
私は幸せ者だ。
ここには幸せしかなかった。
旦那様といっしょにいられて、
生まれてこれて、良かった。
この幸せはずっとずっと続くのだと、人形は思っていた。
ずっと、ずっと、永遠に。
私は幸せなお人形。
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