第5話

 シャーリーは何かに服を引っ張られて、階段をつまずいた。後ろを見ると、肖像画の人物の一人が手を伸ばしている。シャーリーの服を引っ張ったみたいだ。

「もう!」

 肖像画の人物はシャーリーに手を振る。

 シャーリーはそれを無視して階段を上っていった。

 真っ黒い絵があった。何を描いているのだろうか。闇なのか夜なのか。

 シャーリーが近づいてその絵を見ると、黒のなかで動く何かがあった。

 水の音がする。

 水夫がオールを漕いで、魚が黒い川を跳ねる。黒しかないのに、それが水夫で、船で、川で魚が泳いでいるのがありありと分かった。黒に形があるのだ。塗りつぶされているようで、輪郭をとっているのだ。輪郭が浮き上がっているのだ。

 ポチャン。

 水がシャーリーに跳ねた。

「ちみたい!」

 シャーリーは濡れた頬を拭って先に行くことにした。  

階段を上っていく。

 青と赤、水色とオレンジのステンドグラスが一面に広がる。

 輝く光りが落ちている。

 まるで、空から花びらがひらひらと降っているような光景だった。

 扉をギーと開ける。

 シャーリーは着物の生地で仕立てられたドレスを着ていた。青く澄んだ瀬に花の刺繍と桜色の帯が流れるように美しい。銀の髪に花の髪飾りが良く映えた。

 扉が閉じられて暗闇が広がった。

 闇の中でポ、ポ、ポ、と青、赤、緑、黄色、紫、白、とあたたかな光が明滅した。

 もう室内は暗闇ではない。

「やあ、シャーリー」

 本が話しかけてくる。

「ごきげんよう」

 とシャーリーは返事を返す。

 部屋の中の、天上まで続く棚にぎっしりと本が収納されていた。本だけの空間だった。ここにある本は魔法の本たち。

 頭よりも上にある本を取ろうと手を伸ばした。なんとか指の先が届くくらいだ。

「んーーーーーー!」

 本はぴくりとも動かない。

「ぬけて!」

 シャーリーが力尽くで抜こうとするとポンっと本が抜けた。

「やったー」

 喜ぶのもつかの間、抜いた本を挟んでいた本が一緒に本棚から落ちて、バラバラと降ってきた。シャーリーは本の雪崩に飲み込まれ「きゃあ」かわいらしい手が本の山のてっぺんから生えていた。生き埋めである。

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