第4話

 目を開けると植物のアーチの下のベンチに座っていた。

人形の装いはブラウンの長い髪に麦わら帽子、水色のワンピースだった。

 シャーリーは老人の膝からぴょいと降りた。

 見ると、老人は静かな寝息を立てている。

「旦那様はいつも寝てる」

 アーチの外に出ると、お日様が中天にいた。

「良いお天氣」

 家の敷地を取り囲むようにして背の高い木が生えている。お屋敷の壁は魚の鱗のようになっていて、屋根の上には赤い風見鶏。風が吹いて、くるくると回っていた。庭の芝生の中央にはイノシシの置物、わきには赤い電話ボックス。家へ続く階段の横には二体の像。王冠をかぶった王と花束を持った王妃。階段を上った玄関横には仏像の大きな顔だけの石像。

 シャーリーは庭の中央に鎮座するイノシシによじのぼり、その背に跨がった。手を目の上にかざす。

「今日も綺麗です」

 木が開(ひら)けて遠くの海が良く見える。眺めているだけで波の音が聞こえてきそうなキラキラとした景色だった。しばらく海を見て満足したあと、シャーリーはイノシシの背を降りて、庭の端にぽつねんとある赤い電話ボックスに目をやった。

「一体なんなんでしょうかこれは」

 これはただの置物なのだろうか?

 いつも見るたびに気になっていた。

 ドアを開けると赤い電話がある、それだけだった。

 シャーリーは勢いよくドアを閉めた。

 庭から家へと続く階段の横にいる王と王妃にごきげんようといって、階段を上がる。

 玄関には入らずに少し曲がって大きな仏像の顔の前に来た。じーとシャーリーは石像を見つめる。石像の目もじーとシャーリーを見ていた。

 シャーリーは見つめ続ける。大仏と目が合う。大仏はシャーリーを見る。

 落ちていた石を石像に投げた。

 その石が跳ね返って、シャーリーの頭にコツンと当たった。

「いたい!」

 シャーリーは頭を抑えてうずくまった。

「覚えてらっしゃい!」

 シャーリーはぷりぷりとして、その場を去った。

「ルルンタルルンタらんらんらん」

 玄関を入ってすぐ、猫、馬の絵が無数に飾られてあった。絵の中の動物が動いていた。

「ニャーン」

「こんにちわ」

 螺旋階段を上がっていく途中には人物が飾られてある。絵の中の人たちはシャーリーに目線を向ける。

「ルルンタルルンタっきゃ!」

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