第2話

「黒い棺に入ってる子!」

 その言葉を聞いて、熊谷の表情が曇った。

「……」

 萌は熊谷のこんな表情を初めて見て、少し驚いた。これは聞いちゃだめなことだと瞬時に理解した。

「ごめん、だめだった?」

「いや、お前ならいいような氣がする」

「え?」

 萌はそれを聞いて両手を上げて喜んだ。

「わーい! やったね。おじさん次、お人形の動かし方教えて!」

 そういうことでその日はやってきた。

 萌は床の魔法陣に文字を書いている。

「えーと、これがこうで……」

「そうそう、そんな感じ」

 といって信也は萌の後ろに立っている。

「できたあ」

 萌は描きあがった魔法陣を見て、嬉しそうな満面の笑みになった。それから棺から人形を出して、魔法陣の中央に立った。

「始めていい?」「いいよ」

 熊谷は二人の少し後ろで、身体を前の背もたれに預けて座っていた。

「ここに誓う、我が契約の鎖により汝に我が循環の一部となることを与えん。我問いかけに応え目覚めよ」

 魔法陣がパアーと光りだした。萌が手を離すと人形は宙にぷかぷかと浮いていた。

「繋がれ、鳴動せよ」

 萌と人形が魔法の鎖で繋がった。

 光が失せ、人形が床に降りた。

 萌はゆっくりと後ろにさがる。

 三人は人形を見た。

「成功したかな」

「待ってて」と信也がいう。

 熊谷は何も言わず黙っていた。

 人形の目がゆっくりと開いた。

 虹色の瞳。

 萌は近づいて人形をまじまじと見る。

「綺麗な瞳……」

 人形は萌を見て、信也、熊谷を見てから、もう一度萌を見た。

 薄紅色の唇が動きだす。

「あなたは、ずっと一緒にいてくれますか?」鈴のような声音だった。

「もちろん、ずっと一緒だよ」

萌は笑顔でそう応えた。

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