第一話

「いよぅ」

「あーっす」


 辺りは石造りの城壁の上。

 その縁に腰を掛け、足をブラブラと揺らしている少女にそう声を掛けてから僕はその隣に腰を下ろした。


「今日も平和ですねぇ」

「ですねぇ……」


 そうのほほんと呟き合う僕らの眼下には、次々と展開される魔方陣。それが爆発する度、人間や奇怪な生物がはじけ飛ぶといった光景が広がっていた。

 傍から見ればとても平和には見えないかもしれないが、僕たちに被害が出て無い以上、これはやっぱり「平和」なのだ。


「あー、今日で何か月だっけ?」

「さァ、二か月は越えたような……無い様な?」


 そんなことを考えながら、僕たちはぼーっと城の下を眺めていた。


 そう、僕たちはいわゆる召喚者なのだ。

 それは大体二か月くらい前のこと。僕ら私立 常野高等学校の2年3組はまとめてこのアイツバルグ公国に召喚されたのだった。

 

 その時の授業は確か……化学の時間だったか。

 あまりに訳が分からなかったため、ふて寝していたところを呼び出され、顔から地面に突っ込んだのでそこはよく覚えている。

 そこから何事かと顔を上げれば、目の前の汚らしいおっさんが頭を下げ、「助けてくれ」とか言っていたのだ。

 そこでクラスの委員長が「時間が欲しい」などとと言って話し合った所、クラスの大半が「可哀そう」などと言う理由で出した同情票で僕たちはこの戦いに巻き込まれることになったのだった。

 

 あ、ちなみに僕はもちろん反対票。隣に居る、鳴無おとなし ひびきと他何名かで反対したのだが、先のことなぞロクに考えてないバカ共の数に飲まれて口をつぐむしか無かった。

多数決などと民主主義を気取るのなら、「少数意見の尊重」とやらは一体どこに行ってしまったのだろうか。

 

「あ、ごめん。ちょっと硬いの抜けた」


 そんな泣きたくなるような気分になっていると、突然隣の響がそう声を上げた。

 その言葉に下を注視してみると……見つけた。

 響の張った地雷の爆風を突き破り、巨大な牛のような生物が城の門へと突進してきていたのだ。


 やっこさんも随分後が無いらしい。

 貴重なキメラをこんな雑に扱うとは。


 確かに響の爆風は多数に強い一方で、強大な「個」に弱い。それを狙ったようだが、その欠点を放置する程この国も馬鹿じゃないのだ。

 響の魔法が殲滅用だとするのなら、僕のこれは……


「いや、悪いね」


 バチッ


 まさしくそんな個のためにある様な魔法だ。


 ずぅん


 僕が寝そべり、ライフルのように壁の下に向けた長い木の棒。

 その先には幾層もの魔法陣が浮かんでおり、まるで砲煙の様にちらつく青い電撃が、今しがた死を放ったということをありありと主張していた。


「ヒュー、やるぅ」


 棒を引き上げる僕に眼すらくれることもなくそう言う響。


「誉めるんだったらもっとしっかり誉めてくれ。」


 気だるげな響にそう言って、僕は再び見張りの仕事に戻るのだった

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少年少女兵 かわくや @kawakuya

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