終点
*終点
どこかで聞いた鐘の音と共に、ボクは目を覚ました。
音と共に消えるのは、魔法。
美しく広がった銀色の世界は消え、現れるのは……踏みにじられた現実。
それはまるで誰もが知る童話のようだ。
いつか貰ったマスコットが示唆していたその終焉。
長い、長い夢が終わる。
それは過ぎてしまえば一瞬で……。
だけど、ボクにとっては永遠の幸せだった。
「気がついた?」
雪と共に、凛とした声が降りかかる。
いつの間にか、そこには小さな少年が立っていた。
一〇歳前後の、肩まで伸びた銀色の髪と蒼い瞳を持つ少年。
暗闇の中でもキラキラとしていて、とても綺麗だと思った。
「どうだった? キミの望む夢は」
倒れているボクの隣に、そっと体育座りで腰を下ろす。
まるで旅の土産話でも尋ねるように、その人物は声を弾ませる。
答えなど、とっくに知っているというのに。
「うん……良かったよ……。とても……とても……楽しかっ……」
最後の一言は、もう声になっていなかったかもしれない。
何故ならボクの身体は、すでに人間としての機能をほとんど失っていたから。
ここまできてしまえば、もう痛みもない。
目を閉じてしまえば、そのまま眠りに落ちてしまいそうだ。
それでも彼は、慈愛に満ちた瞳で……しきりに何度も頷いてくれた。
「そろそろキミの幼馴染が迎えにくる。まあ、その前にキミは息を引き取るけれど」
そっか……。
もう、いっちゃんと会えないんだね……。
ちょっと淋しいけど……。
でも……それが約束だったから……。
命があるうちに、奇跡を起こせて良かった。
劇は大成功だったし……。
ココアもいっぱい飲めたし。
球技大会だって、初めて優勝出来た。
それに……。
友達も、たくさんできたから……。
それが全て夢だったとしても……。
それでも……幸せだ
「それじゃあ、僕ももう行くよ。キミのように、優しい夢を待つ人がいるからね」
穏やかに笑うと、すっと立ち上がった。
ふわりと辺りの雪が舞う。
それがとても幻想的だった。
「そうだ。キミが紡いでくれた物語……素晴らしかったよ。実際は、あんなに綺麗なものではないけれど……それでも……」
その人が、優しく笑った気がした。
「……ああ、思い出した。これ、置いてくね」
そう言ってその人は、ボクのすぐ横に小さな赤い花をそっと置いた。
そしてゆっくりと背を向け、音を立てずに歩いていく。
せめて、名前くらい……知りたかったな……。
「……レオンハルト・ミューラー」
その人は、振り返らず、歌うように名前を教えてくれた。
……ありがとう。
素敵な世界を、ボクにくれて……。
「…………」
白くなっていく視界。
まるで雪が布団のようだ。
とても眠い……。
たとえ夢の中でも……。
また、会えるといいな――――いっちゃんと。
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