第1話 すでに始まっている

俺は広告から応募した【インバーター】の面接に向かっていた。

 もちろんスーツをキチッと決めてね。


 職場は大都市【テュポン】にかまえている。

 高いビルがズラズラと並ぶ中、地図を見ながら男は【インバーター】を探していた。

 

「あれーおっかしいな?

 地図だとここら辺にあるみたいなんだけどな」


 地図を見ると近くにあるはずなのだが周り見てもどこも違う会社名だった。

 男は【インバーター】のパンフレットを見返す。

 しかし何度見返しても場所は合っている。

 

「どこにあるんだよ?」


 男は焦っていた。

 早くしないと面接の時間に遅れてしまうからだ。

 初任給80万Gもらえる程の好物件逃す訳にはいかない。

 そんな焦ってる中、後ろから女性が話しかけてきた。



「どうしました?

 何か困ってるようだったので、何かお手伝いする事ありますか?」


 話しかけてきた女性赤い髪をしとても綺麗で可愛いを備えた人だった。

 年上のお姉さんのような方で、話し方は上品な仕事マンのような方だった。

 それに可愛い。

  

「あぁ、どうやら道になってしまったようでな」

「そうなんですね、私この付近の道に詳しいですよ!」

 

 奇跡が起きた。

 このお姉さんは道に詳しいとの事だ。

 それに可愛い。

 これは場所聞くしかないと男は思った。

  

「もしよかったら、場所を教えてくれないか?」


 男の言葉にお姉さんは二つ返事で答えた。


「もちろん!………って言うと思ったかー!」

「すまないな…って、えっ、えぇぇ!」


 なんとお姉さんは俺のお願いを断ったのだ。

 先ほど『何かお手伝いする事ありますか?』と聞いてきたのに、断りやがった。

 優しい人だと思ったのに、ちょっと可愛いと思ってた自分自身が恥ずかしく思えてきた。

 凄い顔には似合わない程性格が悪いと感じる。


 男は衝撃過ぎて口が塞がらなかった。

 女はそんな男の表情を見て爆笑をした。


「ハーヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

 まんまと騙されてやんのこいつダッセー、ヒャヒャヒャ」

「どっどういうことだ!騙されたというのは説明しろ!」

「そんなの言葉通りの意味だちょっとくらい自分で考えろや!」

  

 先ほどのお姉さんの印象から想像できない程の豹変した。

 180度いや一周半の540度くらいガラっと変わった。

 上品があるなんて思ったのはバカだった。

 こんなうざい笑い方する奴に上品なんてあってたまるか。

 ちょっと可愛くって胸があって俺のドタイプって……くそぉ。

 

 男はここで女をぶん殴ってやろうと思った。

 しかしそんなことはしなかった。

 いやできなかった。

 可愛いからじゃないぞ!

 殴りたい気持ちはとてもあった、だがそれより今大事な事がある。

 面接だ。

 一分一秒が惜しい中、こんな変な女にかまってたら本当に遅刻してしまう。

 男は女に殴りたい気持ちを押し殺した。

 そして、女をふりきり【インバーター】の会場探しを再開した。


 

 

 ったくなんなんだよ、あの女。

 可愛かったな~……じゃなっくって、とんだ時間の無駄だったな。

 それにしても………ホントどこにあんだよーー!!


 

 男は今だ【インバーター】を探していた。

 さて、男は面接の時間までに間に合うのか!?



 探し始めて30分が経過した。

 面接開始まで残り15分

 男は腕時計を見て絶望する。

 残りの時間が少ないのに男はまだ【インバーター】を探していた。


「やべぇーこのままじゃ面接できないな」


 男はパンフレットや地図を何度見ても見つからない。

 確かに場所的には目の前付近にいるのに、なぜか存在・・していない。

 焦る男にイラ立ちが出てきた。

 頭をカリカリ掻き始め、体を震わせていた。

 そして子供みたいにいじけ始めた。


「もーおー間に合わないーー、いやだー俺この会社入りたい―」


 男はもう半分諦めていた。

 これだけ探しても見つからない。

 変な女の邪魔もされて嫌な気分にもなった。

 実に不快だ。

 

「こんな状況で面接しても受かんないだろ……」


 すると天気が怪しくなってきた。

 先ほどまで雲一つない快晴だったのが、空全面に雲に覆われた。

 そしてポツポツと雨が降ってきた。

 この雨は男の心にチクチクとダメージを与えていた。


「……まじかよ。もう勘弁してくれよー、傘持ってきてねぇよー」

 

 男は近くの雨宿りができる場所を探した。

 幸いにも周りに沢山のビルがある。

 男はそこの中の一番大きなビルに入った。

 入ると同時にエントランスの時計が男の視界に入った。

 

 現在時刻10時55分


 面接の時間は11時からなので残り5分しかない。

 次に外の天気を見る。

 雨は弱まるどころか先ほどより強くなっていた。

 その光景を見た男は口が開いたまま唖然としていた。

 絶望という言葉が一番しっくりくる。

 

「・・・・・」


 そしてエントランスのタイマーが鳴った。

 1時間おきになる時計のタイマーだ。

 そう、エントランス時計が11時のお知らせをしてくれた。

 ここで男の心のライフポイントが0になった。

 もう面接の時間が始まった。

 しかし男はどこか分からないビルにいる。

 ここで男の501社落ちた事が確定してしまった。

 男は体中の力が抜け地面に座り込んだ。

 

 あ………終わったわ。

 はっはは……は………

 これで501社落ちたわ。

 は、はは。

 も、もうどうなってもいいや。

 これからは生活保護受けてニートとして暮らそう。

 


 そう思ったら気分がスッキリした。

 男は諦めがつくと、偶然かそのタイミングで雨があがった。

 まるで神様がお前は働くが似合ってないと言ってるような感じがした。

 

「ふっこのタイミングで晴れんのかよ」


 男は立ち上がり家に帰ろうとした。

 すでにこの時の男は最強になっていた。

 何事もどうじないという最強に。

 伊達に501社落ちただけではある。

 どん底まで落ちたメンタル、これ以上下がることは無い。

 今の俺は最強だ。

 右手に封印している魔獣を解き放ってもいい気分だった。




「ヒャヒャヒャこいつすげーな」


 すると聞いたことがある声が聞こえた。

 それも最近聞いた。

 いい気分はしない。

 

 男は嫌な顔をした。

 先ほど聞こえた声の正体に気づいたのだ。

 声が聞こえる背後を振り向く。

 そこにいたのは―――

 

「こいつどんなメンタルしてんだよ」


 あの可愛いお姉さんだった。 

 追記)性格がとても悪く、笑い方が癖ありで鼻につくやつ

 おーっと失敬失敬。 

 悪口を言ってしまったね。

 まぁ気にしない気にしない。


 さぁーてこいつどうしてやろうかな?

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