第74話 騎士団四天王

 静かだった王宮の中に、激しい戦闘音が響き渡る。


 さすがは厳しい試験を突破した聖騎士たち。各個人がかなりの力量を備えていた。とはいえ……サヴォン団長には遠く及ばない。


 アレスは聖騎士を投げ飛ばして、ミラに聞く。


「なぁミラ……」

「なんですか?」

「ミラって剣士じゃねぇの?」


 前に王宮で戦っていたときは剣を使っていた。しかし今のミラは素手状態だ。それでも強いけれど。


 ミラは背後からの剣をかわして、回し蹴りで相手を撃ち沈める。

 

「武器なら大抵のものは使えますよ。ですが……素手が一番好きです」

「なんで?」

「殴ったときの衝撃がダイレクトに感じられるからです」


 言って、ミラは目の前の聖騎士を殴り飛ばした。とても元王子様とは思えない豪快な一振りだった。


 ……


 返り血を浴びて楽しそうに笑っていたのは見なかったことにしよう。


 しかし……ミラの実力をアレスは過小評価していたようだった。聖騎士80人を相手に大暴れして、まったくの無傷で戦闘を終えようとしていた。


「さて……ずいぶんと減りましたね」ミラが肩を回して、「準備体操くらいにはなりましたよ」

「……お前……王子だった間、すごく退屈してただろ……」

「そうですねぇ……全力で暴れられるチャンスがありませんでしたからね」


 そしてこうして暴れて、才能が開花したと。 


 ミラは……明らかに戦いながら成長している。というより今まで抑制していた力が開放され始めたのだろう。

 これがミラ本来の実力だ。聖騎士の1人がビビって腰を抜かすくらいには強かった。テルと良い勝負ができるレベルかもしれない。


 ミラが最後の聖騎士を殴り倒して、


「これで終わりですかね……まずは80人」

「まだいるのか?」

「おそらくは。それにサヴォン団長以外にも実力者は多数おりますので、お気をつけて」

「それは楽しみだな」

「そうですね」血が滾ってくるってもんだ。「では……どこへ行きましょうか」


 いつまでも入り口付近で戦っていても意味がない。


「そうだな……まずはテルのところに行きたい」

「では地下牢ですね。あそこの入口は隠されているので……ついてきてください」


 隠し部屋みたいなものか。ならばミラがいなければ見つからなかったかもしれないな。まぁ見つかるまで探すだけなのだが、労力は少ないほうがいい。


 その道中、


「待て」いかつい大男の聖騎士が現れた。「我は騎士団四天王の1人――」


 走りながら、アレスはその聖騎士に蹴りを入れる。一撃では決まらなかったので、回し蹴りで追撃。


 大男の聖騎士は泡を吹いて、その場で倒れた。


 さてまた走り始めて、


「アイツ……なんか言ってたか?」

「騎士団四天王の1人って言ってました」

「騎士団四天王?」

「サヴォン団長を除いて最強の4人が名乗っています。他にも3人いますけど……まぁ説明は不要みたいですね」


 大して手応えは感じなかったからな。


 しかしあれが騎士団最強クラスか……たしかに一撃では倒せなかったけれど、それでも弱かった。


 アレスのそんな思考を読み取って、ミラが言う。


「僕なら十分に苦戦する相手ですけどね……」

「勝てなくはないんだろ?」

「1対1なら問題なく」王子にやられる騎士団最強クラスね……「騎士団のレベルも上げないといけませんね。今みたいに……サヴォン団長の一強時代ではいけない」


 それからミラはアレスに笑いかけて、


「どうです? 騎士団に入りませんか? アレスさんなら推薦で入団できますよ」

「興味ねぇよ」組織で働くなどアレスには不可能だ。「まぁサヴォン団長がやられた穴埋めを考えないといけないわけだから、大変だろうけどな」

「……そうですね……」


 そんな軽い話をしながら、襲ってくる聖騎士たちをなぎ倒していく。


 そしてミラはとある部屋の中に入っていった。

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