第73話 楽しみです

 王宮が見えてきた。月光を背に存在しているその巨大な建物は、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


 嵐の前の静けさ。肌寒い風が吹いている。心臓の鼓動は一定で落ち着いている。集中力も高い状態を保っている。


 王宮への道を一直線に歩きながら、アレスが言う。


「そういえばミラ……お前、どうやって国の政治を変えるつもりなんだ? 国王暗殺でもするのか?」

「そんなことはしませんよ。とりあえず……籠絡できそうなところから攻めます。そして権力を得て……内部から変えていきますよ」

「……じゃあ、もう二度と会うこともないかもな」

「そうかもしれません。僕がいないからって、寂しくて泣いちゃダメですよ」

「こっちのセリフだ」


 そんな軽口を叩きながら、真っ黒の衣装を着た2人が王宮の前に到達する。


 王宮の門番が3人出てきて、


「なんだお前ら……? ……王宮は一般人は入れないんだ。こんな夜中に出歩いてないで、さっさと帰れ」

 

 ミラが門番の言葉を無視して、


「警告をします。僕たちはこれから王宮に殴り込みます。最大の警備と、最大の警戒をしてください。そうでなければ……油断したままやられますよ。手加減はしませんから」

「はぁ……?」門番は呆れた様子で、「お前……酔ってんのか? そんな意味のわからないこと――」


 言葉の途中で、門番が蹴り飛ばされた。顔面を蹴られた門番は壁に激突して、そのまま動かなくなった。息はしているので、どうやら死んではいないようだった。


「もう一度警告をします」蹴りを放ったミラが言う。「最大の警備と、最大の警戒をしてください。死にたくなければ全力でどうぞ」


 その言葉と門番の1人が一撃でやられたという事実。それらが門番2人の警戒心を最大まで高めた。


 門番の1人が王宮に入っていく。おそらく侵入者が来たということを知らせに行ったのだ。


 残った門番は時間稼ぎ。なるほどなかなかのコンビネーションだ。


 門番が剣を抜いて、


「こから先は一歩も――」

「悪いな」アレスが門番の剣を真っ二つにして、「世間話をしてる時間はねぇんだわ」


 そのまま門番の腹部に拳を入れて気絶させる。一応殺したくはないので手加減はしたつもりだった。


 真正面から王宮に乗り込みながら、アレスは言う。


「警告なんて必要なかったんじゃないか?」

「どうせやるならド派手にやりましょう」ミラは楽しそうに、「ほら……騒がしくなってきましたよ」


 ミラの言う通り、王宮の中が騒がしくなってきていた。侵入者が現れたことを全員が知って、戦闘態勢に入ったのだろう。


「フフ……」……本当に楽しそうだな……「お祭りみたいです。楽しくなってきましたね」

「……お、おう……」コイツ……服を着替えてから性格が変わってないか……? 「楽しむのはいいが、油断するなよ」

「了解です」


 アレスとミラは門に蹴りを放って、豪快に扉を開ける。


 そして王宮の中に侵入して、


「大層なお出迎えだねぇ」


 王宮の入り口には、多くの聖騎士たちが待ち構えていた。


「10、20、30……って、数えるのやめた」


 数えるのが面倒なくらいの数がいた。100人はいないだろうが、50人は軽く超えている。


 明らかにこちらを敵と認識しているところを見ると、ちゃんとミラの警告は伝わっているようだった。


 鋭い殺気が突き刺さってくる。どうやらかなりの強者が紛れ込んでいるようだった。


 まさに祭りだ。楽しくなってきた。心臓が踊り始めたようだった。


「とりあえず……全員ぶっ飛ばすか」アレスが刀を構えて、「背中、任せるぜ」

「了解です」アレスとミラはお互いに背中を預けて、「ああ……こんなに大暴れできる機会が僕の人生にあるとは……楽しみです」


 ……ミラって戦うのが好きなんだな……そして王子という立場上、大暴れできる機会がなかったのだろう。


 なんとも頼りになることだ。この人数の聖騎士を相手にまったくビビっていない。それどころか本当にテンションが上っている始末だ。強がりでもなんでもなくこの状況を楽しんでいるようだった。

 

 ……


 これがニーニャの衣装効果かな。いつもと違う自分になれるというのが衣装を変えるメリットかも知れない。


 ともあれまずは準備体操。VS聖騎士80人くらい。

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