第72話 最終決戦ってのは衣装チェンジが定番やろ

 さて火事も収まった。そして街の人々も前を向いている。


 自分たちは自分たちのやることをやる。アレスとミラが王宮に向けて出発しようとしていると、


「ちょっと待って」ニーニャが話しかけてきた。「その格好で行くつもり?」

「……?」アレスは自分の服装を見て、「なにか問題があるのか? 今回は真正面から殴り込むから、変装なんていらないだろ」


 もう国ごとぶっ壊してもいい。そう思っているから真正面から殴り込む。ミラも反対しないところを見ると、今の王宮はぶっ壊してもいいと考えているのだろう。


 ……結局殴り込みになるのなら、最初からやっておけばよかった。それだけが後悔だ。とはいえ……いきなり殴り込むのも抵抗があったからなぁ……


「そういうことやなくてね。せっかくの最終決戦やし……ビシッと決めていったら?」

「……なんで?」

「古今東西……最終決戦ってのは衣装チェンジが定番やろ」


 というわけでニーニャに、ほぼ強制的に着替えさせられた。別にアレスとしては衣装などどうでもよかったのだが、


「おお……」ミラは結構乗り気なようだった。「いいですね……動きやすいですし……」


 ミラが着ているのは黒いチャイナドレスだった。長い手足も相まってかなり似合っている。本人も気に入っているようだし、それで気合いが入るならいいだろう。


 ミラはアレスを見て、


「アレスさんもお似合いですよ」

「……そうか?」アレスが来ているのは黒スーツだった。「マフィアみたいになってるが……」

「それはそうですけど……だからこそカッコいいですよ。囚われのお姫様を助けに行くには最高じゃないですか」

「……そういうことにしておくか……」


 たしかにテルの前でカッコつけるなら、これくらいビシッと決めたほうがいいかもしれない。


 さて2人が着替え終わったのを見たニーニャが、ミラに黒い袋を投げた。


「ミラちゃんにはこれもあげる」

「……? なんですか?」ミラは袋の中身を覗き込んで、「あ……これは……」

「欲しいって言ってたから、作っといたで」

「……ありがとうございます……」


 そうしてミラは袋をしっかりと締めて、肩に担いだ。


 アレスが言う。


「? なにが入ってたんだ?」

「ちょっと欲しいものがあって……ニーニャさんに作ってもらってたんです。中身は内緒です」

「ふーん……まぁ、なんでもいいけどな」


 ニーニャがこの場面で手渡すということは、なんかしら役に立つものなのだろう。ならば口を出すことはない。


 さて……


「今度こそ行くか」衣装も最終決戦用に変えたし、「逃げるなら今だぞ?」

「国王とサヴォン団長が、ですか?」自信たっぷりだな。「僕は僕でちゃんとやりますから。僕のことは気にしないでいいですよ」

「了解」


 実際に気にしている時間はないだろう。なんせ相手はサヴォン団長だ。人類最強を相手にしながら、他のことを気にする余裕はない。


 というわけで……


 ケリ、つけるか。

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