第71話 だから腹が立つんですよ
獣人というのは国王の人気取りのために作られた機械人間。サイボーグ。
国王は獣人のような怪物を人為的に生み出し、街で暴れさせた。そしてその怪物を倒すことによって名声を得ていた。
話したことはそれだけ。説明すればすぐに終わる事柄。
「この間のドラゴンも同じだろうな。国王が作って、自分の作った組織で討伐する。そうして英雄になる」
ミラはずっと、アレスの言葉を黙って聞いていた。おそらく想像もしていなかった事実を聞いて、心の容量がいっぱいになってしまったのだろう。
しかし今、伝えないといけなかった。このまま真実を告げないのは卑怯な気がした。
ミラは熱っぽい息を吐きだしてから、
「……テルさんを狙った理由も、同じですか……? 獣人の娘を処刑して、人気を得る?」
「だろうな。たぶんこの火事も……テルが放火したことになるんだろ」
獣人の娘は危険人物だった。だから殺した。なんて素晴らしい決断力なんだ。そうやって国王とサヴォン団長はさらに地位を固める。
周囲の街の人々が何を言っても関係ない。獣人の娘には洗脳能力があるとか、適当にウソをつけばいい話。
歯ぎしりの音が聞こえてきた。
「腹が立ちます……! お父様はなんてことを……!」
「だが効率的だ」
「だから腹が立つんですよ」
マッチポンプはとても効果的だ。共通の敵を自分たちで作り出して討伐する。バレない限りは人気の永久機関みたいなものだ。
だから腹が立つ。
ミラの呼吸が乱れていた。怒りと悲しみと……言葉に出来ないような感情が渦巻いているのだろう。
「……僕が信じたお父さんは……もういないんですね……」遥か昔に消えていたのだろう。「僕は……父上が幸せならそれでいいと思っていました。父上はきっと……国のために最高の政治を行ってくれると信じていた」
それからミラは首を振って、
「違いますね……僕は逃げていただけだ。都合の悪い真実から目をそらして、お父様が幸せならいいって言葉に逃げたんです。お父様を信じてるっていう都合の良い言葉を使って、本当に大切なことから目を背けていた」
それはきっとそうなのだろう。
ミラは国王の行動に納得などできていなかった。でも大好きな父親を信じたかった。だから父親の幸せを第一に考えていると、自分の心にウソをついた。
「僕がやらなければいけない」ミラは覚悟の決まった目で、「この国を守らないといけない。僕にはその使命が……いえ、僕はこの国を守りたい」
それがきっとミラの本心。今までは父親が国を守ってくれると思っていたから一歩引いていただけ。
だがここまで決定的に考えが食い違った場合は、もう動くしかない。
「アレスさん」ミラが言う。「王宮に殴り込むなら……僕も連れて行ってください。父上のことは一発殴らないといけませんし、テルさんにも謝罪をしなければなりませんから」
「ダメだ」言ってから、肩をすくめて、「って言ってもついてくるんだろ?」
「はい」ミラは不敵に笑う。完全に覚悟は決まったようだった。「ご安心を。こちらの決着はこちらでつけます。アレスさんは自分の目的を実行すればいい」
「おう。お互いがお互いの目的のために利用するってだけの話だ」
アレスはテルを助けてサヴォン団長をぶちのめす。
ミラは国王をぶん殴ってからテルに謝って、国の政治を変えていく。
政治を変える方法なんてアレスにはわからない。そのへんのことはミラに任せておけば良いだろう。
ともあれ……
最終決戦だ。
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