第67話 真っ二つにされて死にてぇなら

 火災の中心は酷い有り様だった。


 焼け焦げた家の破片が地面に落ち続けていた。内蔵まで焼けてしまいそうなほどの熱気が常に襲ってきていた。熱が龍のように唸りを上げて、周囲を飛び回っていた。


 その燃える家たちに取り囲まれた広場に、その2人はいた。


「もう少し被害は大きくするつもりだったが……」サヴォン団長が剣を持って言う。「さすがだ。素直に称賛しよう。想像以上にキミを倒すのに手こずってしまった」


 サヴォン団長の側で倒れているのはテルだった。


 遠目からでもわかるほどボロボロになっていた。しかも……右足が折れている。膝のあたりから人体としてはありえない方向に曲がっていた。


「……こっちはちょっと……ショックだよ……」テルは荒い息のまま、「もう少し抵抗できると思ってたんだけど……」

「キミは十分に強いさ。私はもっと街の被害を広めるつもりだったが、キミに止められてしまった。この私を止めたのだから誇っていい」

「……それでも……街は焼けちゃってるからね……」それからテルは不敵に笑って、「それより……いいのかい? 世界で一番怒らせちゃいけない男を怒らせたみたいだよ?」


 サヴォン団長はアレスのほうを見て、


「わかっているさ。そのためにキミを傷つけたのだから」


 アレスはサヴォンを睨みつけながら。


「やっぱりな……お前、だろ」


 本気のアレスと戦うためだけに。アレスの潜在能力を引き出すためだけに。アレスを怒らせるためだけに。そのためだけに街を襲い、テルを傷つけた。


「街を襲うのは国王の指示だ。というのが私の受けた司令だよ」

「国王の目的はそうだろうな。だがアンタの目的は違うだろ?」怒りが抑えられない。「……アンタは自分が本気で戦える相手を求めてる。ただ……それだけだ」


 だからアレスを挑発する。アレスにとって最も大切なテルを傷つける。


 アレスは言う。


「アンタの計画通り怒るのはムカつくが……言ってやるよ」絶対に伝えなければならない。「街を壊そうが国を滅ぼそうが世界を征服しようが、俺には関係ない。だが……テルを傷つけるやつは絶対に許さない」


 それはアレスにとって世界で一番重い罪だ。その罪を許すことはできない。


 テルを傷つけたサヴォンにも、テルを守れなかった自分自身にも。どちらにも怒りが溢れて止まらない。


「上等だよ……」アレスは言う。「そんなに俺と戦いたいなら……やってやる。真っ二つにされて死にてぇなら……かかってこい」


 1秒でも早く目の前の男をぶった切りたい。これほどまでに殺意というものを感じたのは初めてだった。感情というものが溢れ出して破裂しそうなほど苦しかった。


 だが……今のアレスには説明をしなければならない相手がいる。


「ちょ、ちょっとまってください……!」ミラが困惑しながら、「な、何の話をしてるんですか……? サヴォン団長……なぜテルさんを狙うんですか……?」


 サヴォンがテルを狙う理由は簡単だ。


 サヴォン団長が答える。


「国王の指示だ」

「ですから……なぜそんな指示を……」


 そしてサヴォンはその言葉を、あっさり言った。


「それはテルくんが……だよ」

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