第63話 ハッキリ言って怖いです
次に現れたマナー講師は、恰幅の良いオバサンだった。
笑顔が豪快な人だった。笑い方がちょっとテルに似ていると思った。
ともあれ問題なくマナー講習が終了した。メイド長が暴れなければ、こんなにもあっさりと終わるものだったらしい。
さてマナー講師と入れ替わりに現れた聖騎士が、
「新人諸君、お疲れ様。これからキミたちには国王に会ってもらうが、くれぐれも粗相のないように」
そのセリフはメイド長に言ってやってくれ。
聖騎士に連れられて、また移動する。今度の部屋は食堂よりは狭い部屋だった。とはいえ10人に満たない人間がいるだけなら広々としているけれど。
「さて……では1人ずつ国王と面会だ。それ以外の人たちはここで待っていてくれ。まずは――」
新人聖騎士の1人が呼び出されて、国王のいる場所へ連れられていった。
そうして残された新人たちは、少しだけ緊張している様子だった。そりゃこれから国王と会うのだから緊張するのも当然だろう。
その間に、
「あ、あの……」青い目をした新人聖騎士がミラに言う。「さっきは……ありがとう。助けてくれて……」
……そういえばメイド長に目突きを食らいそうになっていたな。それをミラが助けたのだった。
「いえいえ」ミラは優しい笑顔で、「おケガがなくてなによりです」
……本当にミラはそれだけなんだろうな。見返りなんてまったく求めていない。激情にかられて行動してしまう。
それが最大の強みであり、最大の弱みでもあるのだろう。
とりあえず……アレスはそんな人間が嫌いじゃない。
さて新人聖騎士のお礼を受け取ってから、ミラがアレスに言う。
「すいません……派手に目立ってしまって……」
「いや……いいよ。ミラがやらなければ、俺がやってただけだ」目突きを止めるのは間に合わなかっただろうけど。「……テルだったら……もっと騒ぎになってるよ」
「……これ以上……?」
「おう。あいつは必ず、俺の想像の斜め上のトラブルを持ってくる」
成果も斜め上のものを持ってくるけれど。失敗の仕方も斜め上だ。いや、斜め下か?
……まぁ最終的に解決する能力を持ったやつだから問題はないけれど。
さてしばらく部屋で待たされた。アレスたちの順番は最後のほうらしく、ドンドン他の新人聖騎士たちが国王のところに案内されていく。
その間、
「ふぅ……」ミラが自分の胸を抑えて、「……」
「緊張してるのか?」
「……はい……」弱々しい笑顔だった。「……ハッキリ言って怖いです。お前なんて愛してない、って言われるのが怖いんです」
……そして言われる可能性があるからな……困ったものだ。
しかし緊張してばかりもいられない。緊張が強すぎると、後悔だけが残る。もちろん緊張がなさすぎるのも考えものだけれど。
「どんなことを話すつもりなんだ?」
「……そうですね……僕をハメた理由……なんて聞くまでもないでしょうから、やはり当初の予定通りでしょうか」ミラの意思を尊重しよう。「もう一度僕を愛してほしい……それだけが聞きたいんです」
「……」聞くべきか迷ったけれど……「もしも断られたら……?」
「どうしましょう。しばらく泣いて……そうですね。とりあえずメイドカフェで働こうかと」
「なるほど……」
売上、伸びるだろうな……ミラほどの美少女が猫耳つけて接客してくれるのだ。もしかしたらちょっとした噂になってしまうかもしれない。
それから沈黙があった。なにか喋ってミラの緊張を和らげてやりたかったが、あいにくアレスは会話が苦手である。
テルとかニーニャがいればな……あの2人がいるなら、会話を回してくれるのだが。
とにかく……自分にできることをしよう。
「まぁ……襲われたりしたら俺に任せなよ。団長は他の任務に出てるみたいだし……問題なく守れるよ」
「ありがとうございます……」……相当緊張してるようだ。顔が白い。「しかしサヴォン団長は……なんの任務をしているんでしょうか。入団試験よりも大切な任務なのでしょうか?」
「そうみたいだな。なにをやってるのかは知らないけど」
まぁ入団試験の参加者が多いうちはサヴォンがいると抑止力になるだろうが、数が減ってきたら他の聖騎士でも十分に取り押さえられる。だから途中からいなくなったのかもしれない。
そしてまた沈黙。やはり自分は会話が下手だなぁ、なんてアレスが思っていると、
「次の方」病院みたいな声のかけられ方をして、「次の方は……おふたり同時にどうぞ、とのことです」
2人同時……?
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