第62話 そんなパートナーさえ見つかれば
聖騎士に連れられて食堂の端っこ。そこで聖騎士の彼は「カイ王子」と言った。
やはりターバンを巻いている人間が元王子であることはバレていたらしい。
「セジールさん……」ミラは自分の質問を優先して、「さっきのメイド長は……なんですか? 先代の方はどちらに……」
「おや……私のような末端の聖騎士の名前まで把握してくださっているとは……光栄の極みですね」
この状況で冗談が言えるとは大した男だ。
「はぐらかさないでください」
「失礼」おかげで少し空気が軽くなった。「さっきのメイド長は……あなたがいなくなってから雇われたメイド長ですよ。今のカイ王子……ああ、サフィール様が連れてきたメイド長です」
「……なぜサフィールさんは、あのような方を……」
「目上の人に対しては礼儀正しい人ですよ。貴族とか王族とか、そっち相手にはとても腰が低い。ただ……自分より下だと認定した相手にはご覧のとおりです」
下の人間は見下していい。それが礼儀というものか。ナルホド、ベンキョウニナリマス。そんなことを学ぶくらいならアホなままでいいや。
聖騎士――セジールは深く息を吐いて、
「サフィールが王子になってから……もうやりたい放題ですよ。なんとかサヴォン団長が秩序は保っていますが……彼だって1人の人間なのだから限界があります」
……まだサフィールが王子になって、そこまでの時間は経過してないはずだが……それでも大暴れしているらしいな。
「サフィールさん……」ミラは頭を抱えて、「あの人は……はぁ……」
ミラの反応を見る限り、この状況を予想はしていたようだ。サフィールならそうするだろうと思っていたのかもしれない。
「カイ王子……」セジールが切実な様子で、「なんとかして戻ってきてはいただけませんか……? やはり私は……民のため、聖騎士のために全力で怒ってくれる人に仕えたい」
「……そう言っていただけるのはありがたいですが……」複雑そうな笑顔だった。「……正直……難しいです。お父様が今さら、僕を家族として認めることはないでしょう。そうなれば……もう僕の立場はありません」
ミラが王族に戻ることはない。おそらくそれは確定している。
……
国王やサフィールを殺せば別かもしれないけれど。
「いいんですか? サフィールが王になれば、国が崩壊しますよ?」
「……彼にだって能力はあるでしょう。それにあの強引で楽観的な性格は人を惹きつけます」
「能力の高さは認めますよ。ですがその能力を私利私欲のために使ってしまう人だ」それがサフィールに対する評価。「誰か……彼の暴走を止める人が必要なんです。そんなパートナーさえ見つかれば、たしかに彼は王の器だ」
王の器には見えないけれど。しかしまぁ……ミラやセジールが言うなら信じてみようか。
セジールが続ける。
「とにかく……カイ王子……あなたがどうしてこの場所にいるのかは知りませんが……あまりご無理はなさらぬよう。あなたの身に何かがあれば、私も悲しいですから」
「ありがとうございます」ミラは深く頭を下げて、「身内のゴタゴタに巻き込んでしまい……申し訳ないです」
「聖騎士なんて、王族の問題に巻き込まれるのが仕事みたいなもんですよ」それからセジールはアレスのほうを見て、「青年。王子を頼む」
……そんなことを頼まれても困るけれど……
「全力は尽くすよ」傷つけるつもりはない。「聖騎士が全員……アンタみたいなやつなら良かったのにな」
「始末書で王宮が埋まってしまうよ」それはそれで楽しそうだ。「ああ……それと、もう1つお願いがある」
「なんだ?」
「サヴォン団長の願いを叶えてやってくれ」……団長の願い、ねぇ……「サヴォン団長は……全力で切り合える相手を探してる。残念ながら私では力不足なんだ。今のこの国の中では……キミくらいしか対抗できないだろう」
「……抵抗、ね……もう何度もやられてるけどな」
今まで何度か戦ったが、結果は敗北に近いものだ。
セジールは続ける。
「もう彼は手段を選ばないだろう。時間がないからな」
「……時間って……サヴォン団長も似たようなことを言ってたけど、なんの話だ?」
「私からその答え合わせはできないよ。1つだけ言えることがあるとするなら、私はキミの味方ではない。団長の味方だ」
「そりゃわかってるけど……」
味方をしてくれ、なんて思っていない。
しかし団長の時間とはなんだろう……ちょっと仮説はあるけれど……
「……次の講師が来たようだな」セジールはその場から離れながら、「とりあえず講習を受けてくるといい。国王様との面会まではもう少しだ」
まぁ気になることもたくさんあるけれど……まずは目の前の問題を解決していこう。
マナー講習を受けて、国王に会う。それが今の最大の目的だ。
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