第60話 戯れが過ぎますよ
先ほどの戦闘試験から打って変わって、アレスたち新人聖騎士は広い食堂に集められた。
食堂には普通に食事をしている人もいる。貸し切りってわけじゃなさそうだった。
メイド長はその食堂の片隅にアレスたちを案内して、
「まず断言しますが……あなた達の人間性はとても低俗です」スバラシイオコトバダナー。「下民の街に生まれ下民の街に育つ。下民に囲まれた生活をしたあなた達は、人間性すらも底辺なのです」
……おお……なんか強烈な人だな……
「そして我々のように高貴な人間は高貴に生まれ、高貴に育ちました。その高貴な人間にあなたたちのような下民、愚民が接するならどうすれば良いか」
メイド長はどこからともなく指示棒を取り出して、ヒュンヒュンと音を立てて振る。
「今までの人生をすべて否定しなさい。下民の根性を捨て、高貴なる所作を学びなさい。そうすることにより、我々のように高貴な精神を身につけることができるのです」
……帰りてぇ……目的とか全部かなぐり捨てて帰りてぇ……あるいはぶった切りてぇ……
我慢だ……ここで激昂しては今までの苦労がムダになる。ミラの目的も果たせなくなる。ここは我慢だ……
なんて思っていると、
「あらあなた……なかなか良い心がけね」メイド長が指示棒でアレスの兜を叩いた。「兜をかぶって、低俗な顔面を隠す。下民の顔など見ても不快になるだけですから、可能な限り隠しておくのですよ。それに今までの人生を否定するためには、顔を隠すのが第一歩かもしれませんからね」
何度も指示棒で叩くのやめてくれ。叩かれるたびに間抜けな音が響くんだよ。兜をかぶっていると音が反響して耳に残るんだよ。なんか他の聖騎士たちに笑われてる感じがするんだよ。
しかし……顔を隠すことを許されたのは好都合だ。兜を脱いだら指名手配犯の顔が出てきてしまうので、どうやって言い訳して兜を被り続けようかと考えていた。何故か勝手にメイド長からお許しをいただけた。
さてメイド長はストレスでも溜まっているのか、新人イビリを続ける。
「あなたも」今度はミラの頭を指示棒で叩いて、「下民としての顔を隠していますね、高得点ですよ」
「……どうも……」
ミラのこんな機嫌の悪そうな声、初めて聞いた。
「私は下民の匂いを嗅ぎ分けるのが得意なの。あなたからは……とても強い下民の匂いがするわ。きっと悪辣な環境で、最低の教育を受けて育ったのね。あなたみたいなのが顔を見せて歩いてたら、きっと私は嘔吐してたわ」
じゃあ毎日嘔吐してたのか。大変だなこの人。
とりあえずこのメイド長……今日は風邪気味で鼻が詰まっているらしい。なんと元王子様から下民の匂いがするらしいのだ。
メイド長は何度もミラの頭を叩いてから、隣の新人聖騎士に言う。
「あなたのその目……どうしたの? 変な色ね」
「これは……」すっかり萎縮してしまった新人君だった。「母が国外の人間でして……この国では珍しいかもしれませんが……」
「そういう低俗なものを隠しなさいって言ってるのよ」青い目がそんなに珍しいか……? 「隠せないっていうのなら、私が治療してあげるわ」
そう言って、メイド長は想定外の行動に出た。
指示棒を振りかぶって、なんと新人聖騎士の青い目を突こうとしたのだ。
流石にそんなことをするとは思っていなかったので、アレスの反応が遅れた。
メイド長の指示棒が新人聖騎士の目に直撃する、その刹那のことだった。
「……メイド長……」ミラがメイド長の腕を掴んで、「戯れが過ぎますよ。目に余る」
ああ……ミラさん……
ブチギレていらっしゃる。
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