第56話 守ろうか?

 それからしばらく待たされて、


「すまない、待たせた」闘技場の中が一望できる場所に、聖騎士団団長サヴォンが現れた。「今回ははるばる集まってくれてありがとう。これから騎士団への入団試験を始める」


 騎士団長サヴォンの宣言を受けて、集まった力自慢たちが一斉に騒ぎ始める。どうやらかなり気合が入っている奴らなようで、ちょっとばかり自分が場違いな気がした。


 騒ぎの中、サヴォン団長が声を張る。


「少し例年より人数が多いな……あまり長々と時間をかけることはできない。まずは人数を絞らせてもらう」ジャンケンでもするか? 「まずは……そうだな。その人数全員で戦ってもらおう。1時間後に生き残っていた人間を、次の試験に進めよう」


 ……なんて雑な審査だ……


 アレスはミラに聞く。


「……いつもこんな……雑な選定方法なのか?」

「最初のうちはそうですね……人数が多いので、かなり雑に振り落とされます。とはいえ真の強者は勝ち残るので、問題はないのでしょう」

「ふーん……それでバトルロイヤルか……」提案してみる。「守ろうか?」

「問題ありません。もしも僕がここで落ちるようなら……それまでだったということです」ミラは集中力を高めている様子で、「国王への道は……自分で勝ち取ってみせます」

「そうか。了解」


 ならばもう口も手も出さない。ミラという人間がどこまで通用するのか、見届けるだけである。


 まぁミラなら大丈夫だろう。実力は本物だし、気合いも集中力も十分なのだから。


 そう思っていると、サヴォン団長が意外なことを言い始めた。


「この1時間の戦いには……私も参加させてもらう」……なんで……? 「安心しろ。全力で戦ったりはしない。あくまでも強者に相対したときの対応を見定めるだけだ」


 サヴォン団長が戦いに参加する、それを聞いて一気に場の空気が引き締まった。


 アレスはミラに聞く。


「いつも団長は参加してるのか?」

「いえ……聞いたことありませんよ。いつも団長は見てるだけで……」


 ……なにか特殊な事情でもあるのだろうか……


 あるとするなら……


「……どこぞに王女様が紛れ込んでいて、それを始末するために?」

「可能性はありますけどね……入団試験中に死人が出るのは珍しくないですし」死人が出るような試験なのかよ……「しかし団長が相手とは……困りましたね。近づかないようにしなければ」


 あんなのと戦っていたら命がいくつあっても足りない。


 しかしサヴォン団長が参戦してきたということは、おそらくミラやアレスを狙うのだろう。全力で襲いかかってくることもないだろうが、少しくらいちょっかいはかけてくる。 


 ……


 そうなったら団長の相手はアレスがすることになるだろう。目立ちすぎると問題があるが、実力を示して合格することも大切だ。


 今回は借り物とはいえ刀を持っている。前回のようにあっさりやられたりしない。


 どうせ騎士団長にはアレスたちの正体はバレるだろう。ならば……さっさとリベンジするのも悪くないかもしれない。

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