第55話 弱そうなところから

 さて王宮に入って、闘技場らしき場所に案内された。


「……なんで王宮の中に闘技場があるんだ……?」

「……国王様は戦いを見るのが好きでしたからね……たまにここで兵士の訓練を見ていたんです」


 なるほど……まぁたしかにこうやって人を多く集めることがあるのなら、巨大な部屋はあってもいいだろうな。


 アレスは闘技場の砂を踏みしめながら、


「しかし人が多いねぇ……聖騎士団ってのは、そんな憧れの職業なのか……」


 500人は超えているだろうか。どいつもこいつも自分の力量に自信があるのか、余裕綽々といった表情で闘技場に集まってきていた。


 独特な熱気だった。嵐の前の静けさというか……不気味な感じだ。


 さて試験が始まるまでのんびり待っていようかと思ったら、


「おいおい……こんなチビも参加するのかよ?」ガラの悪そうな輩がミラに絡んできた。「おいチビ。ケガする前に帰ったらどうだ?」


 ……なるほど……このガラの悪そうな奴らは、ミラのことを男だと思っているわけだ。たしかにミラは男性としては小さめかもしれない。


「ご忠告、ありがとうございます」ミラはしっかりを礼をして、「ですが……帰るわけにはいきませんね。僕は……この試験に合格しないといけないので」

「ふーん……」男は腕をグルグル回して、「まぁお前が試験に合格することはないだろうが……ライバルは減らしとこうか。弱そうなところから消しておこう」


 言って、男はミラに殴りかかった。少しでも入団希望者を減らして、自分が合格できる確率を上げようという魂胆なのだろう。


 だが、


「同感です」ミラはカウンターで相手の腹を殴って、「ライバルは弱そうなところから消しておきましょう」


 カウンターを受けた男はあっさりと意識を失った。こいつが弱いってことはないのだろうけれど、やはり相手が悪い。


 ミラは男を担いで、聖騎士の1人に話しかける。


「すいません。緊張のあまり気絶してしまったようなので……救護班のほうへ、お願いします」


 そうしてミラは男を聖騎士に預けて、アレスのところに戻ってきた。


「全員があれくらいの実力なら助かるんですけどね」

「……そうだな……」

 

 ……結構強そうな大男だったけどな。


 これは……アレだな。


 この試験……とくに問題はなさそうだ。

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