第54話 アホやから

「方法は簡単やで。騎士団の入団試験に合格するだけ」ニーニャは紙を2枚取り出して、「それ……履歴書みたいなもんや。当然キミたちは偽名を使って試験を受けることになるから、名前はこっちが作っといたよ」

「あ……ありがとうございます……」


 ミラが紙を受け取って、そのうち1枚をアレスに手渡した。

 そこにはアレスの偽名と、生い立ちや経歴が事細かに書かれていた。おそらく聖騎士の入団試験に必要な情報なのだろう。


 こんな細かい作業はアレスにはできない。


「ありがとう」心から礼をいう。「アンタが味方で良かったよ」

「そらこっちのセリフ。ドラゴンをぶった切るような人間、敵には回したくないよ」


 ……ニーニャとは直接やり合っても勝てるか怪しいけどな……情報屋としても超一流で、おそらく戦闘しても超一流だ。まったく弱点がなくて嫌になる。


 さて、そこで久しぶりにテルがしゃべる。


「その履歴書……私のはないの?」

「テルちゃんはアホやからお留守番」どストレート。「絶対……途中で本名を言ってしまうやろ。キミは潜入とか向いてないんやから……今回は大人しくしとき、激辛仮面さん」


 真っ向からの殴り込みしかできないのが激辛仮面である。逆に殴り込みをするとなると、テルほど頼りになるやつもいないんだがな……


「……はーい……」テルは渋々受け入れて、「ちぇ……試験で大暴れしようと思ってたのに……」

「……だからアカンのやけど……」暴れるからアウト。「まぁとにかく……試験に合格すればいいって話。試験は主に戦闘力を重視するから、アレスくんは問題ないやろけど……ミラちゃんは気張らなアカンで」


 ミラくらいの実力があれば、結構な確率で大丈夫だろうけど。最近の騎士団のレベルは下がっているし、ミラはかなりの強者だ。


「……頑張ります……」ミラは緊張した面持ちで、「……ドラゴンのときも活躍できませんでしたから……今度こそ……」


 たしかにドラゴンのときは戦力にならなかったけど。そりゃ相手が悪いってだけで、ミラが弱いってわけじゃない。


「そういうことなら……あとは変装やね。変装用の衣装は適当に取り繕っておくから、明日はそれを着ていったらええよ」



 ☆



 というわけで翌日、王宮の前にアレスとミラは立っていた。


「……変装って……これでバレないもんかね……」

「……ちょっと不安ですが……」


 アレスは重たい兜で顔をすっぽりと覆い隠していた。


 そしてミラはターバンを頭に巻き付けて、マフラーで口元を隠していた。ついでにサングラスもかけているので、メチャクチャ怪しい。


「……まぁ……バレたら強行突破するだけだし……問題ないかもな」


 ミラが国王と話せる瞬間までごまかせたらよいのだ。なんならバレたって問題ない。

 

 国王サイドが、いきなりミラに襲いかかってくることはないだろう。やるとしたら他の参加者が少なくなってから、騒ぎにならないようにやるはずだ。


 ならばチャンスはある。試験に合格して国王との面会があれば、話しかけるチャンスは大きくなる。


 ……


 まぁまずは試験に合格しないと話にならない。とりあえずは気合いを入れていこう。

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