第53話 直接パパ国王に

 かなり重たい空気が部屋に広がっていた。


 そんな中でニーニャが言う。こいつは周囲の空気なんて関係ない人間なので、いつもと同じ笑顔だった。


「つまりまとめると……国王様の目的は最初からだった。女だと疑われてる息子を、本物の男に取り替える。それが目的だったわけ」


 ……だからオブラートに包め……ってのも手遅れだよな……それに、さっきも思ったが隠しても意味がない。


 ミラが複雑そうな表情で、


「1つ……質問があります」

「なに?」

「息子を取り替えるのなら……生まれた直後のほうが効率的では?」


 赤ん坊時代なら、他の赤ん坊と取り替えてもまずバレないだろう。そのほうが情報を闇に葬るのも簡単だろうし……なるほどたしかに、そちらのほうが効率が良さそうだ。


「んー……なんでやろ。隠し通せるって最初は思ったんかな……」だが無理だった。だから消す。「他にメリットがあるのか……あるいは、そこまで効率厨ではないのか」

「……効率厨……」

「……まぁ、これに関しては想像しても意味がないかな……直接パパ国王に聞いてみたら?」

「そう、ですね……」


 ……


 国王はなぜミラを子供のうちに殺さなかったか。


 それはメリットがある行為だったからなのか、あるいは……少しでも子供というものに情があったからなのだろうか。


 後者なら、少しはミラも救われる。だが前者なら……


「じゃあ侵入の方法を教えるで」ニーニャが言う。「明日……王宮の中ではとある一大イベントがある。知ってる?」


 答えたのはミラ。


「……聖騎士団の入団試験、ですね。1年に一度開催される、大規模な試験です」

「そうそう。強さとか礼儀とか……それらを厳しく審査する。そして合格した人間が、晴れて聖騎士団に入団できるってわけ」

「……つまり……その試験に潜入するわけですね」

「そうそう。んで……試験に合格した新しい騎士団の人達には、国王との顔合わせの権利が与えられる」


 なるほどそれを利用するのか、とアレスが思っていると、


「……そんな権利が、与えられましたっけ……? 初耳なんですが……」

「そりゃそうやろね。だって……今回から突然追加されたルールやから」


 ……


 突然追加されたルール。


 アレスは言う。


「罠、か?」

「せやろね。国王様は……ミラちゃんとアレスくんが、その入団試験に来るように仕向けてる。そんな気がする」

「……おびき出して殺そうとしてるってことか?」

「そうかも知れへんし……そうじゃないかも」珍しく弱気な物言いだった。「国王の目的は……自分の人気を上げること。そのためには本当の娘に生きていてもらったら困る。だから消す。そう考えても不思議ではないよ」


 せっかくサフィールと王子を入れ替えたのに、本物の王子が生きていたら面倒なことになる。証拠隠滅の意味も兼ねて消しておく。


 そのために罠を用意した。ミラが国王に会いたがっているのを知って、おびき出そうとした。その可能性。


 だが……他の可能性もある。他に国王の人気が上がりそうな事柄があるのなら、そちらを優先する可能性もある。とはいえそんな選択肢も思い浮かばないので、やはりミラを消すことが目的なのだろう。


 ニーニャがミラを見て、


「どうする? それでも、行く?」


 罠と知りつつも、行くか。


「……一応聞きますが……他の選択肢は、ありますか? お父様に会う、もっと安全な方法は……」

「ない」ニーニャが言うならそうなのだろう。「強いて言うなら……1年後の入団試験かな。その頃には……警備もちょっとは薄まってるかも」

「……そんなの待ってられません……」それに……警備が薄くなると言っても少しだけだ。「……行きます。僕は本来は死んだ人間です。命は惜しくない……ただ……お父様の真意が知りたい。もう一度……もう一度愛してほしい」


 ミラの目的はそれだけ。父親に愛してほしい。自分は父親に愛されていたのか、それを確認しないといけない。


 そうしないとミラは前に進めないのだ。ずっと過去に囚われて生きていくことになる。


 そこまで覚悟が決まっているのなら……協力しよう。

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