聖騎士団の入団試験
第52話 影武者ですか
ニーニャがドラゴンの死体に近づいて、
「……なるほどねぇ……」なにかを確認した様子だった。「こりゃビンゴ、かな」
「……」アレスはニーニャにだけ聞こえるように、「機械、なのか?」
「せやね。全部がそうってわけじゃなさそうやけど……結構メカメカしいよ」
言われてアレスも首の断面図を覗き込む。
なるほど確かに機械が埋め込まれている。アレスは機械には詳しくないが、明らかに生物にはないパーツが埋め込まれていた。
手応えも少しばかりおかしかった。どうやらドラゴンが機械だということは確定だ。
「まぁ……この処分は国がやるやろね」ニーニャがドラゴンから離れて、「たぶんドラゴンを倒した手柄はサヴォン団長に持ってかれるよ。目撃証言なんてないし」
「別にいいさ。誰が倒したって」
街の被害が最小限で済めばいい。まぁかなり街も傷ついてしまったが、最悪とまでは言わないだろう。
アレスがなんとなくドラゴンを眺めていると、
「どうしたんですか?」ミラがこちらに近づいてきて、「なにか……ありましたか?」
「ん……」ミラにはドラゴンが機械ってことは知られないほうがいいだろう。「このドラゴン……食ったらうまいかなって話をしてたんだよ」
「……食べるつもり、なんですか?」
「いや……どうにも食材としては持て余す」アレスはドラゴンから離れて、「まぁ死体の処理は聖騎士団様に任せようぜ。さっさとここを離れないと、サヴォン団長とご対面になっちまう」
「……そうですね……」
というわけでなんとかごまかして、アレスたちはドラゴンの場所を離れた。
そして場所は移ってニーニャの家。というより診療室である。
ニーニャの病院に来るのは、よほど特殊な事情を抱えた人間だけである。他にオープンで入りやすい雰囲気の医者はあるし、わざわざニーニャのところに来る人間は少ない。
というわけでいつも静かなニーニャの診療室。
「さて、ドラゴン討伐お疲れ様」ニーニャが紅茶を入れながら、「ちょうど、こっちも調査結果が出たよ。お茶でも飲みながら語り合おか」
お言葉に甘えて紅茶をいただく。
ニーニャが紅茶を一口飲んでから、
「単刀直入に言う。首謀者は国王。自分の子供が本当は女だということがバレる前に消そうとした、って話」
……もうちょっと言い方ってもんがあるだろ……とも思った。しかし隠したところで事実は同じだ。ならばストレートに伝えたほうがいいかもしれない。
「……」ミラだって覚悟はできていた。「……やはり……」
「まぁそこまでは周知の事実。こっからが新情報」重要なのはここから。「今もカイ王子は王宮で暮らしてるってこと」
「え……?」ミラが一瞬驚いてから、「……ああ……影武者ですか……いったい何者です?」
アレスが言う。
「サフィールだろ?」
「その通り」当たっていてほしくなかったな。「サフィールという貴族はアレスくんに殺されたってことになってる。そんで……本当は生きてて、今はカイ王子として生きてる」
「……バレないもんなのか?」
たしかにサフィールだって美少年の部類に入るだろう。しかしミラほどじゃない。
「バレたって関係ないよ。一般市民は王子の顔なんて知らんし、貴族連中は権力で黙らせればいいからね。それに……貴族の中でも王子の顔を詳しく知らん連中もいっぱいおる」
「……そんなもんなのか……?」
「年がら年中、王族と出会ってる貴族なんておらへんよ。合うのは数年振りとか、よくある話や」
そういうものらしい。まぁニーニャが言うならそうなのだろう。
「つまり……王子を本物の男に取り替えたって話か……」胸糞悪い。「……子供のことを物かなんかだと思ってんのかね……」
「自分の人気取りのための道具、としか思ってないやろね。あの人はそういう人」それが今の国王。だからこそ王の器。「んで……今の状況は国王にとって完璧。なんでかわかる?」
「……わかると思うか?」
「せやね。ごめん」
謝るくらいなら聞くな。
ニーニャが続ける。
「カイ王子が本当は女だって情報は、貴族の間では結構広がってる。今までは事実やったから、脅されたら従うしかなかった」
「……だが……今は事実無根の冤罪ってことか」
「そう。だから……うちの息子を疑うとは何事かって言って粛清できるわけ」
……その状況を作り出すために、国王は少しの間ミラを泳がせたわけだ。王子の性別が噂として蔓延するまでは利用価値があると判断したわけだ。
……完全に利用されたな……アレスも含めて。
……
……
ここまでやられたのでは……国王様にもお礼はしないといけないな。
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