第51話 少し悔しいです
ドラゴンとの戦いの場に現れたのは、
「ニーニャ……」
情報屋のニーニャだった。
「ほい、どうぞ」ニーニャは刀をアレスに投げて、「普段キミが使っとるやつよりは粗悪なもんやけど……まぁキミならこれで十分やろ」
「……粗悪品……」アレスは刀を受け取って、少し刀身を鞘から出す。「……どこがだよ……」
見るからに最高級品だ。そもそもニーニャほどの実力者が粗悪品など扱っているはずもない。
「だから言ったやん。キミが普段使っとるやつよりは、粗悪品やって」
「……あの刀……そんなに良いものなのか?」
お気に入りではあるし、すごいものだとも思っている。しかしニーニャが驚くほどのものなのだろうか。
「呆れた……知らんで使ってたん?」なんか呆れられた。「あれは妖刀やで。妖刀
「……シン……?」
「オオハマグリとか、ミズチとかも呼ばれるけどな。最も有名な名前は
……
ニーニャは少し興奮した様子で説明を続ける。ニーニャのテンションが上がるほどの名刀だったらしい。
「かつて死神と呼ばれた……
「……蜃気楼……?」
「押しても押しても手応えがなくて、攻撃が当たる気配すらなかったってこと」それほど守備力の高い人物だったらしい。「その伝説の強さから求める人は多かったけど……使った人間は今のところ例外なく早く死んでる。キミが不運なのも……あんな刀を使っとるからかもね」
「アテにならん伝説だな。俺は世界で一番ツイてる人間だというのに」
「それ毎回言うけど……」ニーニャの言葉の途中で、ドラゴンが大きく咆哮した。「……世間話してる場合じゃなさそうやね……」
それもそうだ。今はドラゴンとの戦いの真っ最中である。
アレスは自分が世界で一番ツイてる人間だと本気で信じている。とはいえ別に他人に納得してもらおうとは思っていないので、説明は後回しでいいだろう。
ニーニャが言う。
「そろそろサヴォン団長が来るで。やるなら急いだほうがええよ」
「了解」アレスは刀を握って、ドラゴンに近づいてく。その途中、「ちょっと離れててくれ。俺1人で十分だよ」
仲間たちにそう告げて、アレスはさらにドラゴンに近づいた。
砂埃が晴れて、ドラゴンがアレスを見つける。ドラゴンはアレスを睨みつけて、再び大きく吠えた。
「お前には恨みはねぇけどな……こんな時代に生まれちまったことを呪ってくれ」
言って、アレスは集中力を研ぎ澄ませていく。相手は巨大なドラゴン。そう簡単に勝てる相手じゃない。
アレスがドラゴンの間合いまで飛び込むと、ドラゴンがその鋭い爪を振るってきた。皮一枚で避けるが、その風圧と音量が耳に入ってくる。
直撃したら一撃でやられそうな威力である。まぁ当然喰らわないけれど。
「じゃあな」
言って、アレスはドラゴンに背を向けた。
そうしてテルとミラのところに戻ってきて、
「終わったぞ。帰るか」
「……へ……?」ミラが首を傾げて、「終わった……? ですがまだドラゴンは――」
言葉の途中で、ミラが息を呑んだ。
アレスの背後で、ドラゴンの首が落ちた。それからしばらくしてドラゴンの巨体が力なく地面に沈んだ。
「え……なんで……」ミラが目を丸くして、「……今……なにを……?」
自分で説明するのも野暮だろう、と思っていると、
「お見事」ニーニャが手を叩いて、「相変わらず見事なお手前やね」
「ニーニャがくれた刀の切れ味のおかげだよ」実際、素晴らしい刀だった。「ありがとな。返すよ」
「いや……ええよ。キミが本来の刀を取り返すまでは貸しといたる」
「……いいのか? とっくに処分されてるかもしれないぞ?」
「そこで処分されないから妖刀やねん。処分しようとしたら……たぶんその人は生きてないやろね」
そんな危険なものなのか……自分は今まで、よく生きていたものだ。
さてドラゴン討伐も終わったし帰るか……そう思っていると、
「あの……」ミラがまだ納得できていない様子で、「……今の、なんですか? なんでドラゴンが……なんで首が落ちたんですか?」
ニーニャが返答する。
「説明が必要?」
「……はい……いえ、状況を見て……アレスさんが切ったというのは理解してます。それ以外にドラゴンの首が落ちる理由がないですから」
「じゃあなにが疑問なん……?」
「疑問……というより、少し悔しいです」
「なにが?」
「僕は……アレスさんが刀を抜いたことすら気がつきませんでした」
ふむ……
ミラにそう言ってもらえると自信になる。ミラレベルでも見きれなかったのなら、かなり上出来だ。
「そらせやろ。あんなの見切れるほうがどうかしとるよ。サヴォン団長とか、アタシとか……絶好調のときのテルちゃんくらいしか見切られへんよ」
サヴォン団長に見切られると困るのだけれど。
まぁともあれ……ドラゴン討伐は終了だ。
次の話題に移ろう。
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