第50話 証明してほしいな
ドラゴンの背に乗って、アレスは地上を見下ろす。
「……そういえば俺……着地、どうするんだ……?」このまま落下すれば命がない高さまで来てしまった。「……マズイな……激辛仮面の脳筋が俺にも影響を……? いや、俺も結構脳筋だったな……」
解決方法といえば殴り込み。ケンカ。決闘。これくらいしかない。テルとは脳筋カップルだった。
ドラゴンは咆哮しながら、空を激しく飛び回る。暴力的な風にふっとばされそうになるが、なんとかドラゴンの背中にしがみつき続ける。
「……こいつ……サヴォン団長でも仕留められるのか……?」いくら団長でも空は飛べんだろう。「とにかく……地上に行くか」
言って、アレスはドラゴンの羽の根元に移動する。
そしてドラゴンの羽を根本を力ずくで引っ張る。とんでもない重量を感じたが、この作戦が失敗すればアレスはずっと空の上だ。
ドラゴンが一際大きな声を上げて、バランスを失う。そりゃ羽のうち片方を抑えられたら、空中姿勢の制御などできないだろう。
ドラゴンはそのまま高度を下げていく。しかし地面の家に激突されると困るので、途中で羽を離して、
「よっと……」アレスは地面に飛び降りて、「さぁて……アンタの相手は俺達だぜ、ドラゴンさん」
ドラゴンはまた高度を上げる。手の届かない位置まで行ってしまうのかと思ったが、途中で止まってくれた。
この距離ならまだ戦える。しかもドラゴンは明らかにアレスたちを意識の中に入れてくれた。
ドラゴンはアレスたちに向かって吠える。それだけで体がバラバラになりそうなくらいの迫力だった。
「……本当に撃ち落としてくるとは……」ミラがアレスの隣まで来て、「しかし……どうやって倒します?」
「ううむ……」戦える高度まで落としたのは良いが、決定打はない。「現状……こっちで攻撃力が一番高いのはテルだな」
刀がない以上、アレスの攻撃力はテルに劣る。
……
選り好みせずに、刀を持っておくべきだったか……? いや、中途半端な刀がこのドラゴンに通じるとは思えない。根本からポッキリ折れて終了していただろう。
「じゃあ私が行くよ」テルが棍棒を構えて、「今度はアレスが投げてね」
「了解」
アレスはテルの腕を掴んで、空中のドラゴンに向かって放り投げる。
下から見ると……かなり上空まで飛んでいる。さっき自分はアレよりも飛んだのかと思うと、今更ながらビビってきた。
テルはドラゴンを通り越して、さらに上空まで上がっていく。そして上空から勢いをつけてドラゴンに向けて急降下。
当然、ドラゴンだってやられっぱなしではない。器用にテルのほうを向いて、巨大な火の玉を吐き出した。
しかしそんなものでテルの勢いは止まらない。テルはドラゴンの火の玉を棍棒でド派手に砕いて、勢いそのままにドラゴンに向けて棍棒を振り下ろした。
重たい音が鳴り響いた。隕石でも落ちたみたいな衝撃の音が轟いて、ドラゴンが地面に叩きつけられる。
テルが地面に着地して、
「硬すぎでしょ……サヴォン団長並みの手応えだったんだけど……」
「……むしろドラゴンと比べられる団長が何者だよ……」
アレスがそう言うと、ミラが、
「……ドラゴンを殴って地面に叩き落とす人に言われたくないと思いますが……」
「それもそうだな」どいつもこいつも人間じゃねぇな……「んで……やったか?」
ドラゴンが地面に叩きつけられて、周囲は砂煙に包まれていた。あの勢いで叩きつけられたら、さすがのドラゴンも……
「んにゃ。ダメだね」テルが首を振る。「手応えはあったけど。ダメージは微妙かな。あれは打撃じゃ厳しいよ」
「……なるほど……テルの打撃で無理なら、俺も無理だな……逆立ちしても敵わねぇよ」
「……逆立ちしたら……もっと無理でしょ」
「そういう意味じゃなくてだな」どんな手段を用いても、って意味だ。「さてどうするか……時間は稼いだから、あとはサヴォン団長がやってくれるかもしれないが……」
被害を最小限に食い止めることは成功しただろう。ならばあとは団長に任せて逃げても――
「それは嫌かも」テルが言う。「団長にできるなら、キミにもできる。それを証明してほしいな、アレス」
「……」それ言われたらやるしかないんだけど……「どうしたもんかねぇ……」
「……無理強いはしないけどね」
そう言われるとやる気が出てくるな。
とはいえドラゴンはピンピンしている。素手では勝てないことなど明白だ。
……
やっぱり刀は……次からは飾りでもいいから手に入れておこう。刀がないと、こういうときに不利だ。
となると……その辺の武器屋から適当に刀をもらって――
そう思っていると、
「これ、使ったら?」聞き覚えのある……なまりの強い声が聞こえてきた。「依頼したのはアタシやし。刀くらいは必要経費やろ」
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