第49話 ちょっと不憫だが
地鳴りのような咆哮が聞こえた。空から悠々とアレスたちを見下ろすドラゴンは、とても人間の手に負える相手には見えなかった。
ドラゴンの咆哮と吐き出す火の玉の衝撃。それが心臓まで届いた。油断すれば恐怖という感情が溢れ出してしまう、そんな感覚。
少しだけ冷や汗が出た。とはいえビビってばかりもいられない。
テルが棍棒を構えて、
「どうするの? 手の届かない空中にいらっしゃるけど」
「……そうだな……今、ドラゴンは俺達のことに気づいてもいないからな……」
このままではアレスたちのいないところに攻撃を加え続けるだけである。場合によっては他の場所に逃げられる可能性すらもある。
というわけで、
「少し、ちょっかいを出すか。俺達が相手をしてやる、っていうのを伝えないとな」
「了解」
アレスとテルは阿吽の呼吸で次の行動を決める。
しかしミラには当然伝わらず、
「え……? しかし……どうやってあの上空に行くんですか……?」
「まぁ見てなって」
アレスが言って、軽く飛ぶ。
「行くよ」テルがアレスの足元に棍棒を差し込んで、「でぇい!」
気合いの掛け声とともに、アレスを空中にぶっ飛ばした。
棍棒にふっとばされたアレスは風を切ってどんどん上空に上がっていく。
なかなか肝が冷える体験だった。風を切る音が尋常ではなく、自分が凄まじい勢いでふっ飛ばされたことがわかった。
「良い景色だねぇ……」一瞬だけ下を見ると、もうテルとミラが小さく見えた。「……ようドラゴンさん」
アレスは上空のドラゴンと同じ高度まで飛んで、そのまま首元に飛びついた。テルの狙いは正確で、アレスはなんとかドラゴンにしがみつくことに成功した。
そして背中側に回り込んで、せっかくなので話しかけてみる。
風の音に負けないように声を張って、
「お前さん……半分機械ってホントか?」当然のことながら、返事はなかった。「……もしもお前さんが国王に作られたなら、ちょっと不憫だが……このまま暴れさせることはできないな」
ちょっとばかり……このドラゴンを倒すのには抵抗がある。昔の獣人事件や、テルのことを考えると。
とはいえ……このまま暴れさせると街が壊滅するのは確実だ。最終的にはサヴォン団長が出張ってきて倒すのだろうけれど、それと出会うのは勘弁である。
というわけで……悪いがさっさと討伐させてもらう。
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