第45話 メロン

 騒いでいた男をテルが追い出して、メイドカフェの中は一気に喧騒を取り戻した。


 あんな酔っ払いさえいなければ、基本的には平和な店だ。とはいえ周囲の治安が良くないので、あんな男は珍しくなかったりする。


「ねぇねぇお姉様」他のメイドさんがミラに言う。「お姉様は好きな食べ物とかあるの?」

「……メロン、ですけど……」アレスも初耳だった。「あの……さっきの騒ぎは……もういいんですか?」


 王族のお嬢様からすれば、店で暴れる人間がいるなんてのは大事件なのだろう。


 とはいえ……この辺じゃ全然珍しくもない。


「大丈夫大丈夫。あんなの日常茶飯事だから」それはそれで店内の治安が不安だが……「うちのメイドさん……何人か用心棒が紛れてるから。テルちゃんはそのうち1人」


 腕っぷしの強いやつをメイドに紛れさせているのだ。そしてさっきみたいな騒ぎがあったときは、そいつらの出番ってわけだ。


「お姉様も暴れたらダメだよー。メイドさんに殴ってもらいたいなら、素直に言えば殴ってもらえるからね」

「は、はぁ……」ミラは困惑しながらも、次の話題を探る。「その耳……よくできてますね……本物みたいです」

「でしょ?」メイドは自分の猫耳を触って、「興味ある? つけてみる?」

「いいんですか?」

「もちろん。ちょっとまっててねー」


 そう言ってメイドは奥の部屋に引っ込んでいった。ミラのために猫耳を取ってきてくれるのだろう。


 その間にアレスは他のメイドの様子をうかがう。


 全員が頭に猫耳をつけていた。柄は少しずつ違うが、同じ猫耳だ。よくわからんが猫がコンセプトなのだろう。よくわからんが。


 ついでに尻尾もついている。アレスにはよくわからんが、それらで喜ぶ紳士の方々がいるようだ。アレスにはよくわからんが。


 そして当然、その店で働いているテルも猫耳と尻尾をつけている。仕事中はメイド服を着ているので、いつもの帽子とロングコートは着ていないのだ。


 ……


 なんとも天職を見つけたものだ。この店がなかったら、テルはどこでどうやって働いていたのだろう。どこかでシンプルに用心棒でもしていたのだろうか。


 まったく人生というのはよくわからないものである。テルはこんな天職を見つけるし、アレスは気軽にボディガードを引き受けたら指名手配である。


 これから先の人生……いったいどうなってしまうのやら。


 ……


 考えるだけムダか。アレスにできることといえば……今を全力で生きることくらいだ。

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