第43話 なんで知ってんだよ

 メイドカフェ『バレット』


 街の片隅にあり、さらに地下にある。そんな適当な立地にも関わらず、いつも店内は満員御礼。


 騒がしすぎず静かすぎず、暗すぎず明るすぎず、リーズナブルな料理が並ぶ名店。唯一メイドカフェという形態に好き嫌いが分かれるだろうが、良い店であることに変わりはない。


 広い店内には猫耳メイドさんとそれ目当てのお客さんが多数いた。意外なことに女性客も多く、イケメン女子タイプのメイドも多数在籍している。


 さてさっきのメイドさんに席に案内されて、適当に料理を注文する。


 その瞬間に、小声で聞く。


「テルは?」

「あっち」メイドさんも小声で対応してくれた。「ちょっと元気がなかったけど……なんかあった?」


 チラッとテルの方向を見る。


 いつもどおり明るく接客している、ように見える。だけれどどこから笑顔に影があるような……そんな感じだった。


「まぁ……いろいろな」


 メイドさんの声がさらに低くなって、


「あの子を泣かせたら許さないからね」

「……わかってるよ……」常に笑顔でいてほしい。だけれど……「今回はちょっと……厳しいかもな……」

「珍しいね。アレスがそんな泣き事を言うの」そんなことはないけれど。「まぁ相手が国王と人類最強の騎士団長様だもんね……」

「……なんで知ってんだよ……」

「うちのオーナーが誰か、知らないわけじゃないでしょ」


 メイドカフェバレットのオーナー。


 それはニーニャである。あいつは情報やであり医者であり、メイドカフェのオーナーでもある。そしておそらくアレスの知らない職業をさらに持っているのだろう。なんとも多才な人間だ。


「オーナーが依頼者の情報をこっちに寄越してくるなんて異常事態だよ。それくらい追い詰められてるんだね」

「……なるほど……」

「まぁ、今日のところはゆっくりしていきなよ。大変なときだからこそ……休憩も大切でしょ」


 ……そう言ってくれるとありがたい。


 さてメイドさんは一気に仕事モードに戻って、甘ったるい声に戻った。


「それではごゆっくりどうぞぉ。お兄様、お姉様」


 メイドさんはウィンクして、他の客の接客に戻った。相変わらず切り替えが激しすぎてついていけない。プロ意識が高いというかなんというか……


 ……


 ともあれ休息が必要というのは本当だ。アレスは問題ないと思うが、ミラはかなり精神的に弱っている。ここで少しでも元気になってくれると嬉しいのだが。


 なんてことを思っていると……


「お姉様、かわいー」他のメイドさんがミラの隣に座って、「お肌スベスベ……髪サラサラ……美人……」

「や……そんな……」


 照れてる姿がかわいい。


「ねぇねぇ。お姉様、うちで働かない? 大戦力になりそう」

「ほ、ホントですか……?」

「うんうん。うちはねぇ……今のところ元気な子しかいなくてね。ちょっとおしとやかで礼儀正しい感じのメイドさんがほしいの」

「……なるほど……そんな戦略があるんですね……」

「そうそう。まぁ、考えておいてよ。お姉様ならすぐ合格だろうから」


 だろうな。ミラほどの容姿があれば、速攻で合格するだろう。他の職場でもそれだけで合格するくらいの武器である。


 ……


 ともあれミラも同年代の女性と話せて楽しそうだ。こうやって本音で気軽に会話できる相手なんて少なかっただろう。この場所に来たのは正解だったかもしれない。


 さてこのままミラがリラックスしてくれたら……なんて思っていると……


「おいおい……何だこの料理……?」酔っ払いの声が聞こえてきた。「家畜のエサか? やっぱりお前ら家畜レベルの味覚なんだな」


 ……


 ……

 

 どこの店にも、こんなのがいるのだろうか……?

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