第39話 それはそやね

 正義とはなにか。悪とはなにか。アレスはたまにそんな事を考える。


 今回の事件で悪は誰だろう。国王だろうか。サフィールだろうか。それともアレス自身だろうか。


 国王は国の安定のために娘を切り捨てた。それは正義なのだろうか。悪なのだろうか。


 そんな答えはアレスには出せない。


「……政治の難しいことなんて、俺にはわからねぇよ……」興味もない。「ただ……ミラの願いを叶えたいってだけだ。その結果がどうなろうが、知ったことじゃねぇよ」

「キミはそう言うやろね。表面上は」……ニーニャが言うならそうなのだろう。「でも結局は国のことも考えてしまう。だから殴り込みにいかない」


 殴り込んで全部ぶっ倒せば、国は大混乱だろう。だからやらない。


 ニーニャが笑顔のまま、


「キミが我を忘れて怒り狂って王宮に殴り込み……そんな姿も見てみたいけどね。どうやったら見れるんやろ?」

「さぁな」なんとなく見当はついているけれど。「……そんな状況にはならないほうがいいだろ」

「それもそうやね」そりゃ緊急事態ってやつだから。「まぁとにかく……ドラゴン退治は任せたよ。んで……できればドラゴンが機械だってことを確認してきて」


 それはお安い御用だが……


「そんなこと確認して、どうするんだ?」

「決まってるやん。それを材料に国を脅すの。バラされたくなかったら言うことを聞け、って脅迫する」アレスが苦い顔をすると、「大丈夫大丈夫。国の政治には干渉せぇへんよ。ちょっとお小遣いを引き出すだけ」

「……そうか……」


 ならば何も言うまい。お金モードになったニーニャを止めることなど、誰にもできないのだから。


「そういえば……傷はどう?」

「まだちょっと痛むが……問題はないよ。急所は避けたし、治療した医者が優秀だったからな」

「それはそやね」謙遜しないあたりがニーニャらしい。「んじゃ……アタシはそろそろ帰ろうかな。ドラゴンのこと、よろしくな」

「ああ……」


 もうしばらくして傷が治ってきたら討伐に向かおう。


 ニーニャが部屋を出て、入れ違いにテルとミラが戻ってきた。


「ただいまー」テルが明るくあいさつをして、「ニーニャとすれ違ったけど……なにかあった?」

「傷の治り具合を見に来たんだと」ウソは言っていない。「ミラのことも心配してたぜ」


 ミラは食事の材料が入った袋を机において、


「僕の傷は大丈夫ですよ。そんな深い傷はありませんでしたから」なかなか器用に戦ったらしい。「それよりアレスさん……少しお願いがあります」

「なんだ?」

「食事の後で良いんですが……僕と戦ってくれませんか?」


 ……


 ……


 なんで?


「……戦う? なんで?」

「……僕は……もっと強くなりたい」なんだか決意の決まった目だった。「自分のことは自分で守る。そして大切な人も守る。そのためには僕自身が強くならないと……」


 その考えは立派だが……


「……ミラは……もう十分に強いだろ」


 王宮での戦いを見る限り、かなりの実力者である。不意打ちとはいえサヴォン団長に一撃入れられるのだから。


「ありがとうございます。でもまだ……足りないんです」


 大切な人を守るには、か。


 ミラも相当焦っているのだろう。普段のミラなら、怪我人であるアレスに戦いを申し込んだりしない。それでもなお戦いたいのだ。


 ならば……


「わかった。だが……お互いにケガが全快したわけじゃない。ほどほどに、な」

「わかりました」


 というわけで、なぜか王女様とお手合わせすることになった。


 ……


 ……


 負けないかどうか、ちょっと不安だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る