第38話 ちょっと国民を殺して回るだけ

 サイボーグ。


 まさかそんな言葉を聞くような会話の流れになるとは思っていなかった。


「おかしいと思わへん?」ニーニャが言う。「あんなに暴れまわった獣人。街の人々を殺しまくった獣人。そんな強大な力を持った種族が、1人しかおらへん。そんなことある? 逆に……どうやってその1人は生まれたん?」


 不思議に思ったことはある。


 だが、


「……どこか別の場所で隠れて住んでるんじゃないのか?」獣人が住むのはこの街、この国である必要はない。「それで……捕まった獣人は、間違えてこの国に迷い込んでしまった」

「国の発表ではそうなってる。けどなぁ……獣人なんて種族は、他の国でも目撃証言はない。この国だけで……あの獣人だけが目撃されてる」


 他の国にもいない……?


 だとしたら……獣人ってのは……


「……この国の中で、ってことか?」

「そういうこと」信じたくない事実だな……「サイボーグ化して、さらに遺伝子操作を行う。アタシでも理解できへん超技術の結集。そうやって生み出されたのが獣人って種族」


 後天的に生み出された種族。遺伝子操作。


「……その種族に……生殖能力ってあるのか?」

「あるんやろうね。たぶんやけど」


 ……なるほど……


 ……

 

 じゃああいつは……


 ……


 ともあれ、


「……なんで国は……そんな種族を作り出す必要があるんだ?」

「そんなの簡単。人気者になるため」アレスが顔をしかめると。「だからこの国の政治は腐ってるって言ったやん。今の国王の頭にあるのは、どうやって自分が人気者になるか……それだけや」


 それからニーニャは遠い目をして、


「昔は違ったんやけどね。国のため、民のために政治をする素晴らしい王様やった。でもいつからか……自分の人気だけを欲するようになった。保身に走るようになった」


 人は変わってしまうものなのだろう。それは仕方がないことだ。


「……国王の人気取りと、獣人……なんの関係があるんだ?」

「答えは簡単。獣人という大罪人をやっつければ英雄になれるから。ただそれだけ」


 だからマッチポンプか……


「……獣人を後天的に作り上げて街を襲わせる。そして騎士団という組織を作って獣人を倒す。そうすれば騎士団も国王も英雄。そういうことか」

「せやろね」さてここでクエスチョン、とニーニャは言う。「獣人事件から時間が経過して、また国王の人気は落ち始めてる。また人気を取り戻すには、どうするでしょう?」


 ……国家転覆を企む大罪人を殺す……ってのも作戦の1つだろう。


 だけれど今回の答えは違う。


 アレスは重い気分で答えた。


「……ドラゴンという種族を作り出して街を襲わせる。そして英雄であるサヴォン団長が倒す」


 そうすれば騎士団の神話はさらに信憑性を増し、その組織を作り上げた国王の慧眼はさらに称賛される。


 ……


 まったく……


 ニーニャが軽い様子で拍手をして、


「大正解やろうね。だからまだ騎士団は様子見をする」

「もっと被害が大きくなってから助けるってことか……」反吐が出る話だ。「……対応の遅さは非難されないのか?」

「されることもあるやろね。でもドラゴンを倒した英雄って称号のほうが大きい」マイナスよりプラスが大きいわけだ。「それに……騎士団は大切な戦力やからね。それを守るために入念な準備をした、とか言い訳すればええから」


 自分の部下の安全を守る最高の国王様の出来上がりか。


 ニーニャが言う。


「でもそんなのは、所詮表面上の人気取り。実際に国の政治が良くなるわけじゃない」

「……別にそんな悪い政治には思えないが……」

「せやね。それは間違いない」ニーニャが断言するほどに。「政治的手腕も外交も……すべてがトップクラスの王様やで。ただ国の安定のために、ちょっと国民を殺して回るだけ」


 自分で殺して自分で助けて英雄になるだけ。ただそれだけ。シンプルな話。


「……」

「国を成り立たせる政策としては悪くないんよ。共通の敵を作り出して団結、なんて手法はありきたり。とってもシンプルで効果的な方法やからね」

「……それで殺されたやつは納得できないだろうが……」

「国の政治が傾けば、もっと被害が出るかもしれへんからね」


 国のために国民を殺す。少数の犠牲を選ぶ。


 残酷と言えば残酷だ。だが……大きな目標のために非情な選択ができる器とも言える。その器は国王には重要なもの。


 そして……国王は自分の娘すらも切り捨てることができるのだ。


 国王としての資質は十分。だけれど……なんとも納得できない話だった。

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