第35話 スーパーお姉さん

 現状の目的は、もう一度国王に会うこと。


 しかし……


「言葉で言うのは簡単やけどね」ニーニャが頭をかいて、「どうやって会いに行くつもり? ただの一般人と国家転覆を企む犯罪者さん」


 ただの一般人であるラーミと国家転覆を企んでいるとされるアレス。


 もちろんアレスのは冤罪だが、多くの人が信じたらそれは真実だ。


 そんな奴らが王宮に正面から入れるわけもない。


 テルが言った。


「殴り込む?」

「そりゃ名案だな。だが最終手段だ」

「なんで?」

「殴り込んだら死者が出る。手加減する余裕はないだろうからな」聖騎士やらを何人か殺すことになるだろう。「それはラーミの本意じゃないだろ」


 ラーミはまだ国の安寧を願っている。そのために聖騎士の存続は必要不可欠だ。殴り込んでしまえば聖騎士や国の政治は大きく乱れることになる。


 だから……


「だから最終手段だ。この国ごとぶっ潰して良い、ってなったらやるよ」


 国王ごと、聖騎士ごと。そのすべてをメチャクチャにしても良い、というのなら実行する。


 だがまだその状況じゃない。できることなら聖騎士や国へのダメージは最小限にしたい。


「じゃあどうするの? 殴り込み以外に方法は思いつかないけど」

「ちょっと脳筋過ぎるぞ、激辛仮面……」それでこそテルだが。「なんとかして王宮に忍び込みたいところだが……そのためにはいろんな情報がいる」

「情報って?」

「政治の問題とか、味方になってくれそうな王宮内の人間とか……それらの情報が必要ってことだ」


 それらの情報がないと、結局は殴り込みになってしまう。


 無論……殴り込みが手っ取り早いというのはアレスも同意見だ。だがラーミのことを考えると、実行したくない手段になってしまうのだ。


 ……まぁ殴り込むと言っても……どこかでサヴォン団長をなんとかしないといけないのだが。あの人物がいる限り、どう動くにしても最大の障害になる。


「つまり……」テルが言う。「また情報屋さんに頼む?」

「そういうこと」アレスはニーニャに向き直って、「というわけで頼むぜニーニャ。王宮内の現状を探ってきてくれ」


 言われたニーニャはメガネを上げて、


「アタシのが情報欲しいのなら……対価が必要ってことは知ってるやんな?」

「もちろんだよ」


 そんなことはアレスは承知の上だが、


「え……?」ラーミ王女がニーニャを見て、「……ニーニャさんは……お医者さんなのでは?」

「本業は情報屋やで。ただ……他のことも最高級にこなせるスーパーお姉さんってだけ」間違っていないので否定はしない。「医療とかは学んでおいて損はないからね。適当に身につけただけ。だから診察とかが間違ってても文句は言わんといてや」


 アレスの知る限り、ニーニャの医者としての見識が間違っていたことはない。アレスは医療は素人だが、ニーニャの腕が良いことは把握しているのだ。


 そしてその医者としての力量よりも上なのが、情報屋としての力量である。


「んで、アレスくん……アタシは今の王宮の現状を調べる。じゃあキミは……その対価として何を支払う?」

「なにがいい?」

「せやね……」ニーニャはしばらく考え込んで、「んじゃあ……近くの山にドラゴンが住み着いたっての、聞いたことある?」

「そりゃあるが……」嫌な予感がしてきた。「……倒してこい、と?」

「御名答やね」当たっていてほしくなかったけれど。「そんな危険なこと……キミらくらいにしか頼めへんからね」


 あまりにも危険すぎるだろう。ドラゴンなんて……個人に依頼するものじゃない。


「……そんなの聖騎士に頼めよ……」

「それが頼まれへんのよ。いや……正確には

「……じゃあ聖騎士の団長さんが倒してくれるだろ」

「普通はそうかもね。でもなぜか聖騎士は動いてくれない」

「……なぜ?」


 聖騎士は国の安全を守る部隊だ。ならばドラゴンなんて危険な生き物が出てくれば、真っ先に動きそうなものである。


 実際にドラゴンによる被害は少しずつ増えてきている。今こそ騎士団の力を見せるときだろう。


「倒してきたら教えてあげるわ」ヘラヘラモードになったニーニャに何を言ってもムダだろう。「1つだけ言っとくと……もうこの国の政治は腐りきってる。その象徴たるもんが今回のドラゴンと……やろうね」


 獣人事件。当然アレスはその事件のことを知っている。


 なんとも反応しづらい話題だった。そのことはニーニャだってわかっているだろうに口に出すということは、もう避けられない状態になっているのだろう。 


「まぁ……しばらくは休んだら? アタシも王宮を調べるとなると用意が必要やし……さすがにお腹を刺された状態でドラゴンを相手にするのは面倒やろ」


 というわけでしばしの休息である。


 休息といっても……精神的にはあまり休めないだろうがな。

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