第34話 もう一度

 アレスがサヴォン団長にリベンジをする決意を固めたところで、


「これから、どうする? 王宮に殴り込みにでも行くか?」

「……そうしたいところですけど……」アレスだってそうしたい。「正直……混乱してます。それに……誰を殴れば解決するのやら」


 そう、それが問題だ。


 今回の一件は魔王のような明確な悪役が誰かわからない。そりゃ黒幕は国王だろうが、国王様をぶん殴ったところで解決しないだろう。


 ラーミ王女が言う。


「しばらくは静観、ですかね」

「それでいいのか?」

「他に方法がありません」そりゃそうだけれど……「それに……王子が男になるのなら、それは素晴らしいことです。もう脅されることもなくなって、跡継ぎ問題も解決ですから」


 唯一ラーミ王女が深く傷つくことを除けば、完璧な解決。


 ラーミ王女は地面を見つめて、


「父上がそれで幸せなら……僕は、それでいいんです。僕が犠牲になって国が豊かになるのなら……」


 ラーミ王女の言葉……それは本心なのだろうか。自分の身を犠牲にしてまでも、父親のことを助けたいのだろうか。自分を裏切って殺そうとした父親なのに。


 そこに食いついたのがテルである。


「……じゃあ、ラーミさんの幸せはどうなるの?」

「……父上の幸せが、僕の幸せです」

「本当に?」

「……」


 次の返答は長い時間が経ってから行われた。


「……そりゃ……その、本当は……言いたいことがあります」

「なんて言うの?」

「……もう一度、僕を愛してくれませんかって……」そう言った瞬間、ラーミ王女の目から涙がこぼれた。「僕は……僕はもう父上の役に立てないかもしれない。王様にはなれないかもしれない。だけど……愛してほしい。カイ王子としてじゃなくて、ラーミとしての僕を愛してほしい。そう……伝えたいです」


 ずっとカイ王子が求められてきた。だからカイ王子を演じてきた。それで父上が喜んでくれた。


 だけれど……ずっと心残りがあったのだろう。ラーミとしての自分自身を愛してほしい。その葛藤があったのだろう。


 それがついに溢れ出した。完膚なきまでに父親に裏切られて、ようやく我慢できなくなった。


 長い我慢だったのだろう。生まれてからずっとラーミという自分自身を否定し続けてきたのだろう。


 やっとのこさ出せた、ラーミとしての意見。


 ならばその意見……無視することはできない。


 アレスは言った。


「だったら伝えに行くぞ」

「……え?」

「その想い……直接父親に伝えてやれ」

「でも……どうやって……」

「そこは俺がなんとかするよ。まだボディガートとしての仕事、果たせてないからな。埋め合わせくらいさせてくれ」


 アレスがボディガードとして守りきれていたら、もっと話は楽になっただろう。


 それにアレスはサヴォン団長にリベンジしないといけないのだ。そのためにもラーミの問題を解決しなければ。


「よし……」アレスは立ち上がって、言う。「当面の目標は……もう一度国王に会うことだな」


 それと……サヴォン団長へのリベンジである。


 目的が決まれば、あとは達成方法を考えるのみ。

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