第33話 趣味じゃない
「さて、どうする」努めて明るい口調で、「これから新しいカイ王子が生まれて、アンタはただの一般人になる。そして俺は国家転覆を企んでいたってことになるだろう」
アレスが言うと、ラーミ王女は頭を深く下げて、
「……申し訳ございません……こんな身内のゴタゴタに、あなたたちを巻き込んでしまった……」悔しさがにじみ出る口調だった。「僕が……僕がもっと早く父上の企みに気づいていれば……」
気づくチャンスはあったのだろう。だけれど……
ラーミ王女は震える声で、
「信じてしまった……父親だから、国王だから……なんの根拠もなく盲信してしまった。父上のことだから、きっと素晴らしい考えがあるんだろうって……」
まさか自分がハメられるなんて思っていなかった。いや……父親に裏切られるなど思ってもみなかったのだろう。
それも当然だ。尊敬している父親を疑えと言われても不可能だろう。裏切られても本望だ、とまで思っていたかもしれない。
それでも……裏切られたのは事実。大きく傷ついたのは事実。無関係の人間が巻き込まれたのも事実。
……
「……謝るのはこっちだ……」アレスにも責任がある。「俺も不用心すぎた。ハッキリ言って……調子に乗ってたよ」
自分ならなんとかできると、盲信していたのだ。その場で対応できるなどとバカみたいな考えに囚われていた。
もっと考えるべきだった。
「……疑問が、あります……」ラーミ王女が言う。「なぜ……なぜ父上は僕のボディガードにアレスさんを指定したのでしょう? なぜアレスさんにまで罪を着せる必要が……」
そりゃあ疑問だろうな。
だけれどアレスから見れば簡単だ。
「国王としての人気を保ち続ける方法」
「……? それは……父上の言葉ですね」
「ああ。その答えは簡単だ」アレスはため息をこらえてから、「自分より人気がある相手を消せば良い。それを続ければ、いつか一番人気になる」
それが国王様の答え合わせだ。
「……人気のある相手を、消す……?」
「ああ。人気のある相手が国王の味方なら問題ないんだけどな」サヴォン団長のように。「要するに……無冠の帝王とか呼ばれて調子に乗ってる人間が邪魔だったんだろう。最強の称号はサヴォン団長のものであるべき、そういう考えなのかもな」
「……なぜ……」
「そっちのほうが人気が出るから」とても単純なことだ。「人類最強に唯一匹敵すると言われてるやつは、国家転覆を企む犯罪者だった。その犯罪者はサヴォン団長にボコボコにやられて、お縄になりました。そうなれば……」
「……騎士団と国王の人気はうなぎのぼり、ですか」
「そういうこと」
ついでに無冠の帝王とかいう邪魔者も始末できる。唯一取り逃がしてしまったのが誤算だったのだろうが、それでも冤罪は成立している。目標は達成だろう。
ラーミ王女はかなり熱血な人なようで、真剣な表情で言った。
「ですが……あの戦いは不平等な戦いでした。アレスさんは武器を奪われて、しかも僕を守りながら戦って……おまけに1対1でもなかった。そんな状況で……」
「関係ないな」そんな事実は捻じ曲げれば良い。「最後に残るのは……俺がサヴォン団長に負けたってことだけ。そしてそれは事実だ」
「でも……」
「あれは俺の負けだよ。完全敗北だ」武器がない、など言い訳にもならない。「……とりあえず……借りは返さないとな。負けっぱなしは趣味じゃない」
今までは騎士団の団長なんてあまり興味がなかった。
しかしそうも言っていられなくなった。ここまで完膚なきまでにやられたのでは、格好がつかない。
いつか必ずリベンジをする。今度は負けない。
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