第31話 誰がなんのために

 目が覚めたのは翌日の朝だった。


 日差しが差し込んできていた。通常ならずいぶんと気持ちの良い朝だろうが、腹部の痛みのせいで台無しだった。


 アレスが目を開けると、


「おはよう」テルがアレス寝顔を覗き込んで、「気分はどう?」

「……悪くねぇよ……」最初に見たのがテルだったから。「……昨日はありがとな。助けてくれて」

「礼には及ばないよ。どうせキミなら騒ぎを起こすだろうから……近くまで行ってただけ」


 そしたら案の定騒ぎが起こったわけだ。だからこそベストタイミングで助けに来てくれたわけだ。


 なんにせよテルは命の恩人だ。感謝しなければ。


 さてこれからの行動はどうしようかと悩んでいると、


「おはようさん」ニーニャが部屋に入ってきて、「ん……目が覚めた? 傷の調子はどう?」

「……」気がつけばアレスの身体には包帯が巻かれていた。「良い感じだ。ありがとう」

「どういたしまして」相変わらず笑い方が悪役っぽいな……「んで……なにがあったん? キミほどの男が、そんな傷を負って帰ってくるとはね」


 また買いかぶられてる。


 ……しかし……事情は話すべきだよな。とはいえ……


「……王子様が目を覚ましたら話すよ」


 アレスの独断で話すのは良くないだろう。そう思って発言した直後、


「起きてますよ」カイ王子のベッドから声が聞こえてきた。「話してもらって大丈夫です。もう……秘密にすることなんてありません」

「……良いのか?」

「はい」


 了解も得たので、アレスはベッドに座り直す。さっきまでずっと寝ていたので頭が痛いが、気にしていられない。


 カイ王子は……まだ傷が痛むのかベッドに寝転んだままだった。


 アレスは言う。


「簡単に説明すれば……冤罪だ」

「……冤罪?」テルが首を傾げて、「……なにか舞踏会で事件でもあったの?」

「ああ。サフィールっていう貴族のお坊ちゃまが殺された、ってことになってた。その第一発見者が俺達で、犯人だと疑われたわけだ。それで聖騎士団団長さんに狙われて、このザマだ」


 テルが来てくれなかったら本当に殺されていた。


 アレスの説明を聞いて、テルが言う。


「……サフィールって人が殺されてたのは、あの戦った場所の近く?」

「ああ。すぐ近くの衣装室だ」

「だったらおかしいよ。アレス以外の血の匂いはしなかった」

「ああ。だから……サフィールってのは死んでない。当然、俺達も殺してない。だから冤罪だ」


 そもそも死んでないのだから事件でもなんでもないのだけれど。


 事件の概要説明はそれだけ。要するに無能なボディガードさんが相手の策略を見抜けなかったというだけ。


 とりあえずの疑問をテルが口にする。


「誰がなんのために冤罪事件なんて起こしたの?」

「……一番最初に思いつくのは、今の王政に不満がある他の貴族だろうな。サフィールの家が怪しいだろう」

「……王子に罪を着せて、失脚させようってこと?」

「……そうかもしれないが……」


 だとしたら疑問点がいくつかある。


 今度その疑問を口にしたのは、女医ニーニャだった。


「王族の失脚狙いなら、王様を狙うやろ。なんで王子様から狙う必要があんの?」

「……そうだな……」


 王政が気に入らないのなら、最も邪魔なのは国王だ。もちろん王子も邪魔になるだろうが、真っ先に狙われるのは国王だろう。


 なのに国王は狙われていない。狙われたのは息子である王子だけ。


 ニーニャが首を傾げて、


「王子様だけが狙われて、国王様は狙われない。そんな動機を持った人間がどこにおんの?」


 ……


 1人だけ、心当たりがある。


 しかしその心当たりはあまりにも残酷なものだ。カイ王子にとって、人生を大きく左右する言葉だ。


 だから言いたくなかった。だが言わないと進まない。真実というのは残酷だからこそ力を持つのだ。


 そんなことはカイ王子も承知の上だったのだろう。


「僕は犯人に心当たりがあります」ベッドの上で寝転んだまま、カイ王子は言った。「父上……今の国王が犯人だと思われます」

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