第30話 治療くらいはしてあげる
窓ガラスを割って、外に出る。背後からは聖騎士たちの怒声が聞こえてきた。
当然怒声を聞いても立ち止まるわけがない。アレスたちは全力で王宮から離れた。途中に警備の兵が数人いたが、一般の兵士くらいなら相手にもならない。
……
やはりあの騎士団長様だけが別格だったな。そんなことを思いながら、アレスは夜の街を走った。
……
……
どれくらい走っただろう。無我夢中で王宮から離れて、それで……
「そろそろ……追っては来ないかな……」薄暗い路地裏で、テルが言った。「間一髪だったねぇ……死ぬかと思った」
「……悪い……助かった……」心の底からお礼を言おう。「テルが来てくれなかったら……こっちは死んでたよ」
「あれ……私だってバレてたの?」逆にバレてないと思ってたのかよ。「せっかく変装したのに……」
言って、テルは仮面を外した。こうして見慣れた顔を見ていると、少し安心してきた。
落ち着いて現在地を見てみると、もう王宮からはかなり離れていた。聖騎士たちが追いかけてくる様子もないし、ひとまずは逃げ切ったと考えて良いだろう。
「……なにがあったのか聞き出したいところだけど……」テルがアレスの傷とカイ王子を見て、「まずはお医者さんかな?」
「そうしてくれると助かる……」
もう出血多量でフラフラだ。よくぞここまで走って逃げてきたと思う。
というわけで近くの医者まで移動する。すでに医者のいる場所まで逃げていたようで、かなり近かった。
病院の扉を開けると、
「おやおや……」顔なじみの医者が顔を出した。「ずいぶんハデにやられたもんやねぇ……アレスくんらしくもない」
メガネをかけたなまりの強い女性。それが目の前にいる女医である。
「あんまり買いかぶらないでくれよ、ニーニャ……」ニーニャというのが女医の名前。「俺はただの一般人だよ……」
「ま、そういうことにしとこか」そうしてくれるとありがたい。「入ってええよ。いつもお世話になっとるし……治療くらいはしてあげる」
「……助かる……」料金はちゃんと払うけれど。「こっちの人も頼む」
アレスは病室のベッドの上にカイ王子を寝かせた。
それを見たニーニャが、
「……アレスくん……アンタ、王子様を誘拐してきたん?」
「……してねぇけど……」喋るのもだるくなってきた……「悪い……ちょっと、寝る……」
「お疲れやねぇ……まぁ、そっちのベッドにどうぞ」
言われるがまま、アレスは近くのベッドに寝転んだ。
そうして気が抜けて……一瞬のうちに目の前が暗くなった。どうやらかなりの出血量だったらしく、そのままあっさりと気絶してしまった。
……
これからどうしたもんか……薄れていく意識の中で、アレスは未来のことを憂いたのだった。
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