第28話 激辛仮面、見参!
刺されたのなど何年ぶりだろう。ほとんど記憶にはない。大抵の攻撃は避けれていたから。
サヴォンの剣が突き刺さって、一瞬遅れて激痛がした。腹が全部えぐり取られたのではないかというような激痛に、一瞬にしてアレスの顔に汗が滲んだ。
熱い。腹が熱い。マグマでも直接ぶち込まれたのではないかという感覚だった。
「……急所は避けたようだが……」サヴォン団長が剣を引き抜いて、「それでも戦闘続行は不可能だろう」
「……っ……」
アレスは距離を取って、自らの腹部を押さえる。
なんとか身を捩って回避を試みたので、急所には当たっていない。しかしこの出血量なら、動けなくなるのは時間の問題だった。
さらに、
「……っぐ……!」苦しそうなうめき声とともに、カイ王子がアレスの足元まで吹き飛ばされてきた。「……すいません……こっちは、もう……限界みたいです……」
カイ王子はボロボロになっていた。器用に致命傷だけは避けていたようだが、体中に切り傷や打撃の跡があった。
「謝るのはこっちだよ……ボディガードに選んでくれたのに……面目ない……」
本当に不甲斐ない。完全に実力不足だった。
しかもサフィールの策にもまんまと乗せられてしまったのだ。あの時点で相手の策略に気がついていれば、こんなことにはならなかった。
悔しい。カイ王子を守りきれなかったことが情けない。そしてなにより……テルにもう会えないのが悲しい。
……
それでも……まだやることは残っている。できることが残っているのだ。
「……わかったよ……」アレスは両手を広げて、「サフィールを殺したのは俺だ。カイ王子は関係ない」
「苦し紛れだな」サヴォンが言い放つ。「キミならわかっているだろう? 今回の一件の目的がなにか……」
カイ王子に罪を着せること。カイ王子を失脚させること。それが目的。
だからアレスが何を言おうと、カイ王子に罪が行くことに変わりはない。絶対に変わらない事柄なのだ。
なんとかしてカイ王子だけでも逃がしたい。だけれど……その方法もない。
……
ああ……いよいよ終わりか。結局戴冠することはなく、無冠のままの人生終了。
なんともあっけなくて無様な最期だった。ある意味自分らしい。自分の実力を過信した無能な男の最後にはふさわしいだろう。
「……残念だよ」サヴォンが言う。「キミとは……もっと違う形で出会いたかったものだ」
「……俺もだよ……」サヴォンとは違う形で出会いたかった。「……悪いな……アンタの期待に応えられなくて」
サヴォン団長はおそらく、自分と同等レベルの強者を探していた。そしてその夢をアレスに見ていたのだ。
その期待にすらも応えられなかった。武器がなかったなんて言い訳にはならない。
アレスはサヴォンに負けた。ただその事実だけが残る。
……
ああ……終わりか。ちくしょう。最期にテルの顔を見たかった。
そう思って諦めかけた瞬間だった。
「オーホッホッホ!」ガラスの割れる音と、聞き覚えのある声がした。「激辛仮面、見参!」
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