第27話 残念だよ
というわけで戦闘開始。
アレスはさっさとサヴォンを倒さないといけないが、それでもカイ王子のことが気になる。いくら鍛えているとはいえ、相手は50人の聖騎士だ。
大丈夫だろうか……そう思って一瞬だけ目線をやると、
「聖騎士の質が落ちているのは把握済みです」
カイ王子は飛び出してきた兵士の腕を締め上げて、蹴り飛ばす。その隙に剣を一本盗んで構えた。
基本通りの構え方だった。隙は全く見当たらない、かなりの鍛錬を積んでいる動きだった。
カイ王子は鋭い視線を聖騎士たちに向けて、
「僕が鍛え直して差し上げますよ。かかってきてください」
……どうやら鍛えてあるというのは本当らしい。ちょっと見くびっていたな。
さて背後の戦いも気になるが、アレスはアレスで自分のやることに目を向けた。
目の前には人類最強と名高い聖騎士団団長サヴォンがいた。
改めて向き合うと、それだけで恐怖するほどの力量を感じた。もはや猛獣とでも対面しているのか、と錯覚しそうなほどの威圧感だった。
「どうした?」サヴォン団長が挑発的に、「早くかかってこなくて良いのか? いくらカイ王子でも、50人相手では勝機がないだろう」
「……」それはわかっているが……「迂闊に飛び込むと、手痛いカウンターを食らいそうなんでな」
「ああ。そうだ、私はキミが飛び込んでくるのを待っている」
「……手の内を教えても良いのか?」
「教えたところで、キミから飛び込んでくることに変わりはない。私はこうしてにらめっこをしているだけで勝てるのだから」
サヴォン団長の言う通りだった。このままにらみ合いが続けば、いつかカイ王子が落ちる。そうなれば聖騎士50人がアレスに襲いかかって、2人とも投獄されて終了だ。
だからアレスから行くしかない。それはわかっている。
だが武器のない状況では勝ち目もない。とはいえ他に選択肢もない。
詰んでいる。そんな言葉が浮かんだ。
それでもなお戦わなければならないのだ。アレスは思考の雑音を追い出して、サヴォンに向けて飛びかかった。
時間がない。ある程度のリスクを負わないといけない。アレスはサヴォン団長の剣をギリギリでかわした、間合いまで飛び込む。
そのまま体制を低くして足払いを狙う。
サヴォン団長は大きく後ろに飛び退いて、その足払いを回避した。
そしてまたアレスの間合いの外。つまりまた間合いまで飛び込まなければならない。
そんなことを繰り返している時間はないので、
「逃げるのか? 俺が飛び込むのを待ってるんじゃなかったのか?」
「この場は逃げるが勝ちだ」挑発にも乗ってくれないようだ。「適当に距離を取ってキミの相手をしていれば、いつか勝てるからな」
カイが負ければアレスも負ける。
それだけは避けないといけない。だが受けに回ったサヴォンを落とすのは不可能だ。
だから挑発を続ける。
「人類最強ってのも姑息なんだな。この状況で逃げ回るとはね」
「安い挑発だ。キミがなにを言おうと、戦況は変わらないのだよ」サヴォンは目線でカイ王子を指して、「見たまえ。そろそろ王子のほうは限界が近そうだ」
そんなことは言われずともわかっている。
カイ王子は50人相手にうまく立ち回っているほうだろう。しかしそれでも限界がある。少しずつ相手の攻撃がカイ王子を捉え始めていた。
傷を負って血を流しても、カイ王子の眼光は鋭さを失っていない。それだけが唯一の救いだが、あのままじゃ時間の問題だ。
結局はアレスがサヴォンを倒すしかない。何度も行き着いた結論にしか行き着かない。堂々巡りだ。それを詰みというのだろう。
「どけよ……!」
少しでも早く目の前の相手を倒さないといけない。そう思って行動した。全力で相手に飛びかかった。
「焦ったな」サヴォン団長が冷たく言い放って、「残念だよ。本来の実力のキミと戦ってみたかった」
「――!」
早まったと思った瞬間には遅かった。
……
サヴォン団長の剣が、アレスの腹部に突き刺さっていた。
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