第23話 王位継承権
下見を終えて、そのまま夜になった。
少しずつ会場に人が増えて、その来客たちをカイ王子がもてなしていく。王子も手慣れたもので、相手からの面倒な会話もそれとなくいなしていた。
大したものだ。アレスだったらとっくに手が出ているような挑発も多数見受けられる。そんな言動に対してもカイ王子は冷静そのものだった。
そして来客対応が一段落して、
「……ふぅ……」カイ王子が軽く息を吐いて、「人と話すのは苦手なんですけどね……」
「そうなのか? うまくこなしてるように見えたけどな」
「ありがとうございます。王族なんてのは表面を取り繕うのが仕事みたいなもんですからね」言ってから、カイ王子は肩をすくめる。「失言でしたね。失礼しました」
……カイ王子にも、あの国王の血がちゃんと流れてるんだなぁ……
カイ王子は伸びをして、
「さて……今日の仕事は終わりですかね……」
「そうなのか? 舞踏会は始まったばかりだろ?」
今の会場内は多くの貴族たちが集まって、踊ったり食事をしたり談笑したりしている。
薄暗い空間にきらびやかな衣装がズラリ。食事も高級品で、踊りにも上品な格式があるように見える。
こういう空間はちょっと苦手だ。いるだけで萎縮してしまう。もっと無礼な客が大暴れするくらいの雰囲気のほうがリラックスできる。
「あとは話しかけられたら対応するくらいのものです。ダンスのお誘いがあれば受けたりして……まぁ、されるがままってやつですよ」
その仕事が大変そうだと言ったのだが。
まぁカイ王子なりに大変な仕事とそうじゃない仕事があるのだろう。来客対応は苦手だが、ちょっとした世間話やダンスは得意なのかもしれない。
……
それにしても豪華な食事を見ているとお腹が減ってきた。ちょっとくらい頂いてもバチは当たらないだろうか。そんな事を考えていると、
「僕と踊りますか?」カイ王子が手を差し出して、「リードして差し上げますよ」
「……悪いな。さっきも言ったが、ダンスは苦手だ」
「残念」
そう言ってカイ王子は会場の壁に体重を預けた。
少し、疲れているように見えた。やはり王子という立場を背負って他の貴族と会話するのは疲れるのだろう。
ちょっと休憩させてあげよう。アレスはそう思ったのだが、どこにも空気の読めない輩はいるもので……
「カイ王子」さっきの貴族……サフィールという男が声をかけてきた。「いやはや……王子は本当に強運だね。惚れ惚れするくらい強い星の下に生まれついているよ」
「……サフィールさん……」カイ王子は笑顔を取り繕って、「なにか……ありましたか?」
「王子という立場が羨ましいって言ってるの」そりゃあ嫉妬されることもあるだろうな。「国王の息子として生まれただけで、不自由なく生きてきたんだもんね。それを強運と言わずになんという?」
それは……どうなのだろう。わからないけれど、少なくともアレスが口を出すことじゃないのだろう。
「はい。僕は強運だと思いますよ」カイ王子は笑顔のまま、「最高の両親の間に生まれ、愛を受けて育ってきました。不自由なく育ってきたというのも事実でしょう」
……
そう思われるのは、かなり不自由だと思うけどな。
「そうかい?」このサフィールという男は何が言いたいのだろう。「唯一キミの人生の汚点があるとすれば、妹さんのことじゃないかい?」
妹……? カイ王子は一人息子だと聞いていたが……
とにかく……その妹という言葉はカイ王子にとって触れられたくない言葉だったようで。
「……ラーミが、どうかしましたか?」
ラーミ、というのが妹の名前らしい。
「死んだのが妹で良かったよねって話だよ」……なんでこいつは、こんなに挑発をするのだろう。「双子が生まれて、すぐにその片割れは死んでしまった。それが妹で本当に良かったよ」
「……」
「今の制度では、女に王位継承権はない。だから兄さえ生き残っていれば、それで良かったんだよね」
……王族としてはそうなのかもしれない。だけれど……そんなことを本人の前で言うことはないだろう。
さすがのカイ王子も腹に据えかねたようで、目線を鋭くした。手が出ないだけ我慢強いほうだろう。
「ラーミは……今でも僕の大切な妹です。侮辱することは許しません」
「おお……怖い怖い」全然怖がっているようには見えないが。「そのことでちょっと話があるんだよ。キミの妹さん……いや、お兄さんのことでね」
「……」
「少し離れたところに衣装室があるだろう? そこで待ってるから、早く来てね」
「……僕は……まだこの会場でやることが……」
サフィールはカイ王子の言葉を無視して背を向けた。
そして去り際に、こう一言だけ言った。
「待ってるよ。ラーミ王女」
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