第22話 男心なんてわかりませんから

 アレスは少し気まずさを感じて、


「悪いな。ちょっと……揉めちまった」

「いえ……僕は、触られるのは苦手で……助かりました」表情を見る限り本心だろう。「サフィールさんは……ちょっとボディタッチが激しい人でして……」

「俺は触られなかったけどな」

「それは……えっと……」

「悪い。意地悪なことを言ったな」この話題は避けたほうが良いのだろう。「それにしても……王子ってのは大変な立場だな。あんなのにも愛想よく接しないといけないもんな」


 サフィールとかいうセクハラ野郎にも。


 なんともなしに言ったつもりだったのだが。


 カイ王子は遠い目をして言った。それは同い年の人間とは思えないくらい達観していて、傷ついた末に行き着いた表情に見えた。


「……サフィールさんは優しいほうですよ……」

「……すまん……軽率な発言だった」


 あまりにも想像力が欠如した発言だった。


 そうだ。カイは王子なのだ。セクハラ発言だけでなく……おそらくもっと酷いことも言われている。そして……実際に傷ついたこともあるのだろう。


「いえいえ」それでもカイは優しく笑う。「僕はいつも守ってもらっていますから。恵まれていますよ」

「……」返す言葉は持ち合わせていなかった。「まぁ……アレだ。前の店のパフェが食いたくなったら、俺がボディガードしてやるよ」


 それくらいしかアレスにできることはない。そう思って言ったのだが……


「おや……良いんですか?」カイ王子はイタズラッぽく笑って、「テルさんが嫉妬しませんか?」

「……俺はその発言に、どうやって反応したら良いんだ……?」

「さぁ?」こうやって冗談を言って笑っているのが、カイ王子の素なのかもしれない。「僕には男心なんてわかりませんから」

「……それ、聞かれたらマズい言葉だろ?」

「失言というやつですね。聞かなかったことにしてください」


 そう言って、カイ王子はフラフラと会場内をさまよい始めた。ある程度勝手に動いてもアレスがついてきてくれると認識したのかもしれない。


 少しは打ち解けてきた。ある程度はリラックスしてきてくれたようだった。


 ……


 このまま何事もなく終わると良いんだけどな……

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