第21話 キミは本当に美しいなぁ
国王様と話して、しばらくカイ王子は呆然としていた。
そして、
「……父上……」カイ王子は頭を抑えて、「最近の父上は……なにを考えているのでしょうか……」
「さぁな……」息子にわからないものが部外者であるアレスにわかるはずもない。「……しかし……国王としての人気を保ち続ける方法、か……」
良い政治をする、以外にアレスには思いつかない。しかし国王はそれが不正解だという。
しばらく思考してみるが、それ以外の答えも思いつかない。
「まぁ……考えても仕方ねぇか」どうせ今夜には答えを聞かせてくれるのだ。「とりあえず会場の下見を――」
言葉の途中で、また邪魔が入ってきた。
「やぁカイ王子。ご機嫌麗しゅう」
またもカイ王子に話しかけてくる人間がいた。
「人気者だな」
アレスがつぶやくと、カイ王子は肩をすくめる。
そして声をかけてきた男性向かって、
「こんにちはサフィールさん」サフィール、というのが目の前の男の名前らしい。「サフィールさんも今回の舞踏会に?」
「もちろんさ」なんか軽薄そうな男だな……「キミのような美しい方がいる舞踏会だ。僕が来ないわけがないだろう?」
ナンパな野郎だなぁ……
サフィールという男は金髪のイケメンだった。今まで何不自由なく過ごしてました、って表情をしている。覇気とか警戒心とか、そんなものから程遠い男だった。
しかしまぁ……貴族の男ってのはこれくらいで良いのだろう。警戒するのは他の兵士がやれば良いからな。
「キミは本当に美しいなぁ……カイ王子」サフィールはカイ王子の肩に触れて、「どうだい? 僕と家族にならない?」
「男性同士ですよ?」
「愛にそんなものは関係ないだろう?」男が好きなのだろうか。「しかも……僕と結婚すればキミは本当の自分をさらけ出せるんじゃないかな? 悪い提案じゃないと思うが」
カイ王子の本当の姿。
……
「サフィールさん……」カイ王子は少し嫌悪感を示して、「なにを言っているのか理解できませんね」
「強がりだなぁ。そんなキミも美しいけれどね」
そう言ってサフィールは右手をカイ王子の頬に伸ばす。それを見たカイ王子が明らかに恐怖していたので、
「悪いな」アレスはサフィールの腕を掴んで、「あんまり王子様をからかってくれるなよ」
「……なんだお前……」サフィールは興味なさそうにアレスを見て、「下民風情が僕に触れるのかい? 誰に許可を得たの?」
「天国のばあちゃんに」顔も知らないが。「とにかく……ボディガードとして、それ以上アンタに近づかれるのは面倒だな」
なにを持っているかわからないのだから。本来なら肩に手をおいた時点で止めなければならなかった。
サフィールはしばらくアレスを眺め続けた。カイ王子に向けていた目線とは明らかに違う、ゴミを見る目だった。
やがて、
「ああ……お前、噂の無冠の帝王ってやつか」サフィールは吹き出して、「無冠の帝王って……要するに最後に負けた負け犬ってことだろ?」
「ようやくわかってくれるやつがいた」話が合いそうだ。「そう、俺は負け犬さ。誰にも勝ってないから無冠なの」
「……なんだお前……」サフィールは手を振りほどいて、「……もっとビビれよ。つまんないな」
「……どこにビビる要素があったんだ……?」
「僕の親が誰か知ってるのか、って言ってるんだよ」
「……すまん……知らん……」
そんなに大物だったのだろうか。だとしてもビビる要素はないけれど。
「無知なやつだな……」それは本当である。「まぁいいさ……お前なんて父さんに言いつければ、すぐに奴隷になるんだからな」
「……そうか……」奴隷になるのは嫌だな。テルに会えなくなる。「その時は相手になるよ。奴隷になるのは嫌だからな」
「世間知らずなやつだな……逃げ切れるわけないだろ」
「……そうか?」この息子を見ている限り、家の実力も知れているだろう。「……まぁとにかく……失礼した。無知ですまなかったな」
一応無礼を働いたのはアレスのほうだ。しかもここで揉めすぎるとカイ王子に迷惑がかかる。そう思って平謝りすることにした。
「……いつもならさっさと父さんに言いつけてるけど……」自分じゃ何もできんのか。「今日は機嫌が良いからな。特別に見逃してやるよ」
さっきの国王様といい、舞踏会というのはそんなにも心躍るものなのだろうか。アレスにはよくわからない。
「そりゃどうも」
アレスが適当に返答すると、サフィールは上機嫌に去っていった。どうやら機嫌が良いというのは本当らしい。
……そんなに舞踏会が楽しみなのかねぇ……
お偉いさんの考えることはよくわからん。
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