第20話 ロマンチストかな?
「さて余興は終わりだよ」サヴォン団長は手を叩いて、周囲の騎士たちに言う。「騒がせて悪かったね。準備を続けよう」
サヴォン団長の指示を受けて、騎士たちは自分の作業に戻っていった。いくら荒くれ者たちとはいえ、団長様の指示には従うようだ。
アレスにカイ王子が近づいて、
「驚きましたよ……いきなり戦い始めるなんて……」
「悪い……」
ちょっとはしゃぎすぎた。
「いえ……今回の場合、仕掛けたのはサヴォン団長です。アレスさんは悪くない」挑発を受けたのはアレスだ。「それにしても……本当にお強いんですね。団長とまともに戦える人なんて、はじめて見ました」
「かなり手加減されてたけどな」
あれは実力のどれくらいだったのだろう。50%も出していない気がするが……
「ちなみに……あのまま全力でやり合っていたら、どっちが勝ってたんですか?」
「団長さんだろうな」これは本心からの言葉だ。「想像してたより、圧倒的に強かったよ」
人類最強と呼ばれるのも納得だ。あれ以上の傑物など、いくつかの国を渡り歩いても見つからないだろう。
ともあれ、アレスが続ける。
「あんなのが味方だと、アンタも頼もしいだろ」
「そうですね……しかも今回はあなたもいますから」お世辞のうまい王子様だ。「純粋に舞踏会を楽しめそうです」
「そりゃあ良かった」
だったらもっと安心してもらうために、会場の下見もしっかり行っておかなければ。
しかし会場はかなり見晴らしが良い。狙撃手が潜むようなスペースもないし、隠れられる場所も少ない。こんな場所で暗殺なんて不可能に近いだろう。
あるとしたら自爆覚悟の特攻か……それくらいなら騎士団長様が制圧してくれるだろう。
身構えてきてみたが、今回の依頼は結構簡単なものかもしれない。ちょっと疑いすぎたかな、なんてアレスが思っていると、
「カイ」初老の男性の声が聞こえた。「会場の下見? 相変わらず熱心だね」
王子を呼び捨てにできる人物なんて、数えるほどしかいないだろう。
「父上……」カイ王子はその男性に目線を向けて、「お身体のほうは大丈夫なんですか……?」
父上……カイ王子の父親。
つまり国王様か。この国の国王。本来ならアレスのような一般市民が直接会えるような人物ではない。
腰の曲がった男性だった。杖をついて、重たい足取りでこちらに近づいてくる。どう見ても健康な肉体ではない。カイ王子の言動を聞く限り、なにかしら病気を患っているようだ。
国王は柔らかい笑みを浮かべて、
「今日は気分が良くてね。こうして散歩をしているんだよ」
「おや……なにか嬉しいことでも?」
「そうだね……きっと今日は良いことが起こるだろう。そんな直感があるんだ」アレスは悪い予感がしているけれど。「さて……そっちの男の子が、噂の無冠の帝王さん?」
またその名称か……
「あんまり気に入ってる名称じゃないんでね」
「おや、そうかい? なかなかカッコいいと思うが」そうだろうか……? 「とにかく、私の子供をよろしく頼むよ。キミになら任せられる」
それだけ言い残して、国王は背を向けた。
その背中に、アレスは言った。
「ちょっとまってくれ」
「なんだい?」
「なんで俺なんだ?」それがずっと疑問だった。「俺は……ただの一般市民だ。大切な息子の護衛なら、自慢の聖騎士様に任せれば良いだろ」
サヴォン団長あたりをつけておけば良い。そうすればその空間は、世界一安全な空間に早変わりするだろう。
少なくとも……無冠の帝王とか言われている怪しい男に任せて良い仕事じゃない。
国王は振り返って、
「キミの実力を噂で聞いたから、では納得できないかな?」
「できないね。国王ともあろうものが、そんな不確実な噂で動くとは思えない」
「疑り深いなぁ……」当然の疑問だろうに。「じゃあヒントだけあげる」
「ヒント……?」
「国王としての人気を保ち続ける方法……それがなんだかわかる?」
政治の話は苦手だ。
「……そりゃあ……良い政治をすれば良いんじゃないか?」
「子供の発想だね。ロマンチストかな?」少なくともリアリストではない。「バカな国民が政治の良し悪しなんて判断できるわけがないだろう?」
突然の暴言に反応したのはカイ王子だった。
「父上……! その発言は……」
「失言だったかな? でも事実だ」
「……」
言葉を失ったカイ王子に、国王が続ける。
「良い政治をすれば国民が信じてくれる、なんてのは幻想さ。そんなことより、もっと簡単なことがある」
「……それは、なんですか……?」
国王はニッコリと笑って、
「失言になるから言えないよ」そう言った。「まぁそうだね……無冠の帝王さんをボディガードにした理由……考えてみたら? 答え合わせは今夜のうちにするからさ」
そう言い残して、国王様は去っていった。
……
なんというか……
強烈な人物みたいだな……
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