第17話 アンタの噂も聞いてるよ
刀を預けて舞踏会場に入って、
「うへぇ……」アレスが天井を見上げて、「デカい部屋だなぁ……」
そりゃあ王族の舞踏会の部屋だ。狭っ苦しいところなワケがないのだが、想像していたよりも豪華な部屋だった。
とにかく天井が高い。開放的すぎて逆に圧迫感がある。真っ赤なカーペットも目に悪い。テーブルもイスもピカピカしていて、どうにも目のやり場がない。
ハッキリ言って悪趣味だ。しかしこれが王族なりの権威の示し方なのだろう。
カイ王子は少し緊張気味に、
「ここまで豪華だと……少し落ち着きませんね」
「王子様でもそうなのか?」
「はい……あまり騒がしいのは得意ではなくて……」
それでも王族として舞踏会に参加しなくてはならないのだろう。カイはカイなりに悩みを背負っているんだな。
舞踏会の会場には他にも数人の人間がいた。格好を見るに、おそらく聖騎士の連中だろう。アレスと同じく会場の下見に来ているのかもしれない。
その中で……一際目立つ人物がいた。
別に特段大男というわけでもない。大声を出しているわけでもない。それでもなお、その男は無視できないオーラを放っていた。
「騎士団長」カイ王子はその男に話しかけて、「サヴォン団長も会場の下見ですか?」
サヴォン。それがこの男の名前であるようだ。しかも噂の騎士団長様だったようである。
聖騎士の団長……国最強と名高い、生きながらにして伝説の男。
想像していたよりも若い男だった。アレスよりは少し年上のようだが、まだ20代や30前半くらいだろう。
どんな豪傑かと思いきや、どこにでもいそうな優男だった。なんともイケメンで、モテそうなオーラが滲み出ている。
他の騎士と同じ鎧を着ているのに、輝きが違って見える。これも彼のカリスマ性のなせる技だろうか。
「カイ王子」サヴォン団長は柔らかい笑顔を向けて、「はい。警備のために会場のチェックをしていました」
「いつも仕事熱心ですね。あなたほどの方が味方であるというのは、とても頼もしいです」
「王子に評価してもらえて光栄です」
なんだか結構仲良しらしい。こうしてイケメン2人が並んでいるのを見ると、なんだかちょっと嫉妬してしまう。別に自分がブサイクだと思っているわけじゃないが、この2人には敵いそうにない。
テルを取られたら嫌だなー、なんてことをアレスが考えていると、
「キミがアレスくん、だね」サヴォン団長がアレスを見て、「噂は聞いているよ。無冠の帝王さん」
「その名称はあんまり好きじゃないんだが……」何度このセリフを言うのだろう。「アンタの噂も聞いてるよ。人類最強……そんな噂を」
「こりゃまた過大評価だね。私より強い人間なんて、この世にはいくらでもいるだろう」
「どうだか」
相対するだけでサヴォンが強いことは伝わってくる。これ以上の実力者など、アレスは出会ったことがない。
サヴォン団長は続ける。
「王子の護衛を引き受けてくれたそうだね」
「ああ……アンタがいれば俺はいらないだろうけどな」
「そんなことはないだろう。頼りにしているよ」
そう言ってサヴォン団長は右手をアレスに差し出した。
握手。それを求められているのは見ればわかる。
でもなんだかその手を握りたくなかった。直感的に危険だと思った。
とはいえここで握手を拒否すると、カイ王子の立場が悪くなってしまうだろう。
何より、危険というものは嫌いじゃない。それをくぐり抜けた先にある夕食が美味であることも知っている。
というわけでアレスはサヴォン団長の右手を掴んだ。あえてあっさりと、無防備に掴んでみた。
その瞬間だった。
アレスの体が宙に浮いた。
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