国王としての人気を保ち続ける方法

第15話 苦手でして

 それから1週間が経過して、


「デカい建物だなぁ……」アレスは王宮を見上げていた。「迷子になったりしないのか……?」


 王宮はかなり遠くからでも目視できるほどの大きさだった。かくれんぼでもしたら行方不明者でも出るのではないだろうか。そんなことを思った。


「……僕は……昔、迷子になりました……」隣のカイ王子が答えてくれた。「歩いても歩いても廊下で……なぜか薄暗いところもあって……死ぬかと思いました」


 本当に迷子になっていたらしい。冗談のつもりだったのに。


 アレスはカイ王子に言う。


「わざわざ王子が迎えに来なくても良かっただろうに」

「最大級の敬意を払え、との命令ですから」

「……国王様からの命令か?」

「はい」なんともおかしな命令だ。「さて……では今回の依頼を詳しく説明させてもらいます」

「事前に説明は受けたけど?」

「もっと詳しく、ですよ。それに……聞いていなかった、では困ります」


 そこんところはしっかり徹底している王子様だった。そう言われたら聞かないわけにはいかない。


 アレスはカイ王子の言葉に耳を傾けた。


「今回の依頼は……僕の護衛です。今回の舞踏会の最中、僕を守っていただきます。もちろん他の護衛もいますので……守れなかったからと言って、すべてがアレスさんの責任ということにはなりません」

「そりゃ意外だな」本心を伝えておこう。「失敗したときに責任をなすりつける……そのために呼ばれたんだと思ってた」


 失敗したのは、あの怪しげな男のせいだ。あの新人が弱かったから守りきれなかったんだ。その言い訳のために呼ばれたのだと思っていた。


「そんなことは……ないはずです」カイ王子も詳しいことは聞かされていないのだろう。「もしもアレスさんに責任が行きそうになったら……僕がなんとかしますよ」

「……俺に責任が来るってことは、アンタは無事じゃないんだが……」

「あ……そう、ですね……」


 割と天然なようだ。そんな人物を不安にさせても面白くない。


「まぁ、俺がアンタを守りきれば済む話だろ」そうすれば責任なんて生じない。「心配せずとも、依頼はちゃんとやり遂げるよ」

「ありがとうございます」そう言ってカイ王子は笑顔を見せた。「頼りにしていますよ」

「お、おう……」


 ……こうして見ると本当に美少年だな……同性のアレスですらドキッとしてしまうレベルである。


 ……


 テルが取られたら嫌だなー、なんてことをアレスは思ったのだった。


「さて行きましょうか」カイ王子は王宮の門をくぐって、「まずは衣装を用意いたします。一応舞踏会ですので……こちらで衣装は用意させていただきます」

「そうしてくれるとありがたい」


 アレスはファッションに無頓着だ。いつも同じような服を着ている。そんな状態で舞踏会に行っても良いものかと悩んでいたので、カイの提案は渡りに船だ。


 さて王宮に入り込んで、


「立派なもんだねぇ……」廊下を歩くだけで威圧感があった。「アンタはここが家だもんな……」


 装飾も絵画も半端じゃないのだろう。アレスにはよくわからないが、おそらく高級品なのだと思う。


「豪華な内装は権威を示すためだけにあります。そこに住んでいる人間の価値は、その人間の行動でしか決まりません」

「つまり?」

「内装は飾りに過ぎません」王子が言って良いセリフなのだろうか。「僕は僕自身が……この内装に負けない人間になりたいと思っています」

「立派な心がけだねぇ……」ただのボンボンではなさそうだ。「そういえば気になっていたことがあるんだが」

「なんでしょう?」

「敬語、使ったほうが良いのか?」


 最初からずっとタメ口で喋ってしまっている。カイは嫌な顔をしていないが、内心では困っているかもしれない。


「タメ口で構いませんよ。敬語を使われるのは苦手でして」

「そうか。ありがとう」


 ちゃんと許可を貰えると助かる。不敬罪で殺されずに済むからな、


 さてしばらく廊下を歩いて、


「こちらが衣装室です」


 衣装室にたどり着いた。

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