第14話 私が王宮に乗り込んじゃうよ

「では1週間後……再びお迎えにあがります」カイ王子はもう一度頭を下げて、「本当に……ありがとうございます。アレスさん」


 そう言い残して、カイ王子は護衛を連れて店を出ていった。


 しばらく店の中は静かだったが、


「また……面倒な依頼を引き受けたもんだな」店主が無理に明るい声で、「どう見ても怪しい依頼だろ」

「……そうだな……」怪しさ100%である。「依頼料が欲しかったからな」

「また適当なウソを……お前、金なんて興味ないだろ」

「そんなことないけどな……」


 金はほしい。金があればテルにもっと楽をしてもらえるから。それは本心だ。


 しかし他の人からはそう思われてないようで、


「アレス……相変わらずお前、断れない性格してるよな……お人好しというか」

「そんなことねぇけど……」性格は悪いだろう。「まぁ問題はねぇよ。依頼を解決すれば良い話だろ?」

「そっちは心配してない。そりゃお前なら依頼は解決するだろ」

「……だったらなんだよ……」


 アレスが言うと、店主は困ってように視線をそらした。

 

 それから、


「お前がいないと、さっきみたいな暴れん坊が来たときに困るだろ」

「……俺は別にこの店の用心棒じゃないけどな……」


 ただの常連客である。


「それでも、お前を頼ってるやつは多いだろ」それは知らないけれど。「なんにせよ……無事で帰ってこいよ。お前がいなくなったら、うちの庭の草むしりは誰がやるんだよ」

「……それはアンタだろ……」


 なぜアレスがやらなければならないのか。何度も言うがアレスは何でも屋じゃない。ただ断りきれないだけである。


 店長は頬杖をついて続ける。


「お前が面倒事に首を突っ込むのは珍しいことじゃないけどな……なんか今回は嫌な予感がするんだよ」

「ふーん……」それはアレスも同じである。「忠告は受け取っておくよ。でも、もう依頼は受けちまったからな」


 引き受けた以上は逃げられない。それはアレスのプライドだ。できることなら依頼人の願いを叶えたうえで終わりたい。


 さて会話を終えて、すっかり溶けたパフェを食べ始めると、


「みんなアレスのことが心配なのさ」しばらく静かだったテルが、「アレスはたしかに強いけど……それだけ他の人に狙われることもあるんだから」

「今までもなんとかなってたし、今回も大丈夫だろ」

「そうだと良いけどね」テルすらも嫌な予感がする案件らしい。「早く帰ってきてね。アレスがいなくなると寂しいから。あんまり遅くなるようなら、私が王宮に乗り込んじゃうよ」

「……捕まるぞ……」


 王宮に許可なく殴り込むのは当然犯罪だ。今回ばかりは冤罪ではない。


 まぁともあれ……アレスがさっさと依頼をこなせば済む話だ。


 王子様の護衛。そのミッションを遂行するだけである。

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