第11話 カイ王子

 改めて聞くと、特段大声というほどでもなかった。


 だけれどその声は騒がしい店の中でもしっかりと響いた。誰もが無視できないような、そんな力を感じる声だった。


 中性的な声だった。まだ幼さすらも感じるような若い声。それでも聖騎士たちの動きを止めるほどの威圧感は保っていた。


「人々に迷惑をかけるとは……なんたる愚行」かなり怒っている様子の声だった。「それでも国を守る聖騎士ですか」


 声の主は店の扉から入ってきた。


 きらびやかな衣装に身を包んだ美少年だった。


 明らかに、この掃き溜めの街の住人ではない。もっと特権階級の、その中でも最上級の権力者だろう。そうアレスは直感した。

 

 白い服が似合っていた。細身の体型で、ともすれば美少女とも見える。美しい金髪を伸ばせば、そのまま女装ができそうだった。


 その美少年の隣には、警備の兵士らしき人物が2人いた。聖騎士ではなさそうだが、かなりの実力者に見える。


「カイ王子……」聖騎士が美少年を見るなり、目を白黒させた。「なぜ王子がこんなところに……」


 王子……この美少年が王子か。美少年だと噂は聞いていたが、これは予想以上だった。


「それはこちらのセリフです」カイ王子は聖騎士に近づいて、「聖騎士の仕事はどうしたんですか?」

「そ、それは……」サボってたんだろうな。「も、申し訳ございません……!」


 叫ぶように謝るなり、聖騎士の男は仲間を引きずって店内から出ていった。


 そして聖騎士が出ていった店内で、


「申し訳ございません」カイ王子が深々と頭を下げて、「国が管轄する聖騎士の非礼……お詫びいたします」

「……ん……」誰も返答しなかったので、アレスが言う。「別にアンタのせいじゃないだろ。聖騎士なんて大量にいるんだから、全部管理するのは不可能だ」

「……しかし……それでもこちらの管理不行き届きです」それはそうだけれど。「本当に申し訳ございません。先程の3人に関しては、こちらで処分をします。それから正式に謝罪を……」

「いらねぇと思うぞ」アレスが言うことじゃないかもしれないが。「ケンカなんて、この辺りじゃ日常茶飯事だ。どうやってさばくのか、店の腕の見せ所だよ」


 この掃き溜めの街で飲食店をやっているのだ。ケンカ程度で文句を言ったりしないだろう。そしてその場所に住んでいる人々はケンカ慣れしている。


 聖騎士が暴れた程度では誰もビビらないだろう。


 ともあれこれ以上謝られるのも面倒なので、

 

「んで……王子様がこんなところになんの用事だ? パフェでも食べに来たのか?」

「あ……では、いただきます」いただくのかよ。「お隣に座ってもよろしいでしょうか?」

「お、おう……」なんで王子様と一緒に座るのだろう……「ご自由に……」

「ありがとうございます」


 カイ王子は深々と頭を下げて、それから店主にパフェを1つ注文した。


 そしてアレスの隣に座って、


「良いお店ですね。活気があって……それでいて細かいインテリアにも気を使われている。掃除も行き届いておりますし……」

「まぁ……そうだな」良いお店なのは同意する。「……純粋に食事をしに来たのか……?」

「そうしたいところでしたが……実は他に目的があります」だろうな。「あなたを探しておりました」

「……俺を……?」


 なんだかいろいろと面倒事に巻き込まれそうな予感がする。さっきの聖騎士とのケンカ程度の面倒じゃない。もっと大きな事柄というか……


 ……


 逃げようかな……

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