第10話 どこまで強いんだよ……
無冠の帝王という名称は好きではない。自分に用いられるとかなりモヤモヤする。
とはいえアレスは自分自身が無冠の帝王だと呼ばれている自覚がある。そして無冠の帝王を探しているというのなら、応えるしかないだろう。
アレスが聖騎士に近づくと、
「お前が無冠の帝王ってやつか?」
「その名称は言われたくないんだが……まぁ、現状ではそうだな」
アレスが無冠なのは事実だ。別に大会で優勝したわけでもないし、世界を救ったりしたわけでもない。ただ荒くれの街の力自慢というだけの話だ。
ともあれ、
「あんたら……なんで俺を探してるんだ? 別に金なんて持ってないぞ?」
基本的に貧乏生活である。たまにこうやって食べるパフェが唯一の贅沢と言っても良い。
「お前を倒せば有名になれるだろ?」
「……そうか……? もっと狙うべき相手がいるだろう……? あんたらのところの団長とかさ」
聖騎士団の団長は相当な実力者だと聞いている。狙うならそっちだろう。訓練とかで団長を倒せば名声はもらえるだろうに。
「団長に勝てるわけないだろ。あの人は人類最強なんて呼ばれてるからな」そんなに強いのか……「だから勝てそうな相手を狙うんだよ」
「なるほど」理屈はわかった。だが……「他の相手のほうが良いんじゃないか?」
もっと手頃な相手がいるだろうに。
「お前の噂は聞いたよ」
「どんな噂なんだ?」
「聖騎士団団長に、唯一匹敵するかもしれない男だってな」なんとも過大評価をされているものだった。「だがそんな噂、ウソに決まってるだろ。団長より強いやつなんているわけがないからな。そうだろう?」
「俺は団長とやらに会ったことがないもんでね」噂を聞いているだけだ。「まぁ……そんなに信頼されてる人物なら、俺より強いんだろうな」
実際に騎士団長様の評判はとても高い。各地で武勇伝を聞くし、おまけにイケメンらしい。なんとも雲の上の存在だ。
騎士団の団長……獣人事件で一躍英雄となった生ける伝説。
そんな団長と互角? どうにも間違った噂が広まっているようだ。
「とにかく……」聖騎士の男がヘラヘラ笑いながら、「評判を上げるのに、お前みたいなカモはいないってことだな」
「……俺を倒してもそんなに評判は上がらないだろ……」結局は無冠止まりである。「まぁいいや。お前らと会話しても楽しくねぇし……さっさとかかってきなよ」
アレスが手招きをすると、隣に居たテルが、
「手伝おうか?」
「いや、いいよ。それより店の連中を頼む」
「了解」テルは軽く手を叩いて、「ちょっと騒がしくするよ。離れておいてね」
テルの言葉を受けて、客たちが壁際に寄っていく。せっかくなら店の外まで避難してほしいものだが、まぁこの程度の相手なら問題あるまい。
「さぁ、かかってきな」アレスは再び挑発する。「早くしないとパフェが溶けるからな」
まだ食べかけである。せっかく頼んだパフェなのだから溶ける前に食べたい。
「死んでも文句言うなよ!」
聖騎士の男たちが3人一斉に飛びかかってきた。
「ふむ……」アレスは1人の腕を掴んで、「なるほど……ちゃんと鍛えてあるな。聖騎士ってのは伊達じゃなさそうだ」
言葉を言い終わった刹那、アレスが一本背負いを決める。
華麗な一撃だった。ムダな力を一切感じさせない一撃。聖騎士の男は軽々と一回転し、地面に叩きつけられた。
店の備品には一切当たらなかった。床だけは少しダメージを受けたかもしれないが、手加減はしたので壊れることはないだろう。
「そっちの2人もやるか?」
「……!」2人の酔いは覚めたようだった。「舐めやがって……!」
「別に舐めてねぇけど」
一応警戒しているつもりだ。実際にこの相手はかなりの力自慢らしいので、油断すると痛いかもしれない。
ともあれアレスの相手ではない。
アレスは2人の聖騎士相手に蹴りを放って、一瞬で2人を気絶させた。こちらも手加減はしたつもりなので、死んではいないだろう。
「騒がせたな」アレスが店全体に向かって、「終わったぞ」
「……お前……」店主が呆れ半分に、「相変わらず……どこまで強いんだよ……」
「相手が良かったんだろ」
「……聖騎士って言ったら、国の中でも最強クラスの実力者集団だぞ……」
「じゃあニセモノなんじゃないか?」
聖騎士を名乗る不届き者は多数いる。だってネームバリューがあるから。
ともあれケンカは終わった。さっさと後片付けをしようかと思っていると、
「ふざけやがって……!」聖騎士の1人が剣を抜いて、「こんな大勢の前で恥かかせやがってよ……!」
「……それ、俺のせいか?」そっちが勝手に来て勝手に恥かいただけだろう。「次はもっと精進してから来るんだな」
ケンカならいつでも受けて立つ。どうせヒマだし。
「うるせぇ!」
聖騎士の男は激昂した様子でアレスに飛びかかってきた。
先ほどと違って聖騎士の男は剣を抜いている。そんな状態の相手に手加減をすると大怪我をする可能性がある。
さっさと全力で制圧したほうが良いだろう……そうアレスが思った瞬間だった。
「やめなさい!」
店の中に凛とした声が響き渡った。
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