第7話 結構心苦しいかな
警察署を出ると、
「すっかり朝だねぇ……」テルがあくびをして、「眠い……お腹も減ったし……」
「一晩中取り調べだったからな……」さすがに眠たい。「どっかで食べて帰るか……」
「そうだね」
というわけで飲食店を目指して2人は歩き始めた。
その途中、アレスが言った。
「取り調べ……大変だったな」
「そっちもね」
「俺は大丈夫だよ。グレイスが来てくれたからな」
「グレイス?」
「ああ……さっきの年配の刑事さんだよ」柔和な笑顔が思い出された。「なかなか警察も大変みたいだな……聖騎士団との兼ね合いもあるだろうし」
相容れない2つの組織になるだろう。うまく共存してくれるとありがたいのだけれど。
テルが空を見上げて、
「聖騎士団……私は警察のほうがマシだと思ってるけど」
「そうなのか?」
「いろいろあってね」じゃあ深く追求しないようにしよう。「まぁ警察が好きってわけじゃないんだけど……」
聖騎士団が嫌いなのだけれど、嫌いという言葉を使うことは避けたいのだろう。
しかし警察が好きじゃない、か。
ちょっとセンシティブな話題なので、言葉を選ぶ。
「えっと……次から変なことされそうになったら、なんとかして俺に伝えてくれ。すぐに助けに行くから」
テルにセクハラなどアレスが許す行為ではない。グレイスが処分を約束してくれなかったら、アレスが問答無用で殴りかかっていただろう。
「ありがとう。でも声が出せない状況もあるからねぇ……」
「そうか……難しいんだな……」
「うん。実際……取り調べの最中に武器を持ってないか、確認することは大切だからね」それはその通りである。「まぁ全裸になる必要性は感じないけど……仮にそうだとしても同性の人を呼んでほしいものだねぇ……」
女性の警察官は少ないとはいえ、一応存在する。ならばその人を呼んでほしい。
テルは少し歩く速度を上げて、
「まぁ実は裸を見られることに抵抗は少ないんだけど……」
「そうなのか……?」
「そうなの」衝撃の事実を聞いてしまった。「諸事情につき服と帽子は脱げないの」
諸事情。
……
まぁ隠してるつもりのようだから、これ以上は追求しない。
テルは肩を落として話題を変える。
「バイト休んだ謝罪しないとなぁ……お世話になってるし、穴埋めしないと」
「俺は休みで助かったな……」たまたま今日は休日だった。「まぁ事情を説明したら許してもらえるだろ。たぶん」
「そうなんだけど……今までも何回か同じようなことがあったからね」冤罪で取り調べを受けるのは初めてではない。「結構心苦しいかな」
相変わらず律儀なものである。アレスは別にバイトをサボってもそこまで罪悪感を感じない。少しくらいは悪いと思うが、すぐに忘れてしまう。
ともあれ、
「この辺でなんか食べるか」
というわけでアレスとテルは近くにあった飲食店に入ったのだった。
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