第4話 水掛け論の具体例かよ
警察署の中の取調室で、
「いい加減に罪を認めろ……!」アレスは若い警官に尋問されていた。「お前は近くの酒場に乗り込んで金を盗んだ。そうだろう!」
「デカい声出すなよ……」大声は苦手だ。「だから違うって言ってるだろ……」
「ウソをつくな……!」
「……水掛け論の具体例かよ……」
さっきから、やっただろやってないの繰り返しだ。なんと無意味な会話なのか。
どうにもこの警察官は正義感の強い男らしく、
「子供たちまで人質にとって……恥ずかしいと思わんのか……!」
「やってないからな……」やってたら恥ずかしいけど……「というかアンタ……なんで俺が強盗だと思ったんだよ……」
「お前みたいな悪人面は犯人なんだよ」適当すぎる。「さっさと白状しろ。白状するまで家に帰れないぞ」
「それは困るな」
殴り倒して逃げるか? 目の前の警察官はそんなに強くなさそうだし、問題なく逃げられそうだ。
しかしそれだと本当に犯罪者になってしまう。可能なら誤解を解いてから逃げたいものだ。
「なぁ……子供たちはどうしたんだ?」
「1人ずつ家に帰したよ」
「それはありがとう」さすが警察である。「助かったよ」
「……?」素直にお礼を言われるのは想定外だったのだろう。「なんだお前……」
ただの一般市民である。
「子供たちは、俺達のことについてなんか言ってたか?」
「……それは……知らん。俺が送っていったわけじゃないからな」
「じゃあ聞いてみてくれ」
「お前まさか……! 子供を脅しているのか……?」
「なんでそうなるんだよ……」
会話が通じない。今までも何度かこうやって誤解されたことはあるけれど、トップクラスに誤解されている。
どうしたもんかねぇ……別に大した用事があるわけじゃないが、こうやって拘束され続けるのも面倒だ。テルもバイトには間に合わないだろうし……どうしたもんか。
それにしてもずいぶんと会話ができない新人が配属されてきたものである。今後も警察にはお世話になるだろうし、面倒なことになった。
なんてことを思っていると、
「その子はやってないよ」穏やかな声とともに、年配の刑事が入ってきた。「子供たちから証言が取れたよ。あのお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたって」
若い刑事は不満顔で、
「……グレイスさん……」
グレイス、というのが年配の刑事の名前らしい。
年齢としてはかなりの高齢だろう。背は低めで、ホッホッホと笑い始めそうな雰囲気だった。髪の毛も白いし、相当なベテランのようだった。
一見すると覇気のない老人だが……
「取り調べは終わりだよ」グレイスはアレスに近づいて、「迷惑をかけたね。後日、正式に謝罪させてもらうよ」
「謝罪はいらねぇけど……」あんまりあっさりとした釈放だったので、拍子抜けしてしまった。「……良いのか? 帰っても」
「キミはやってないんだろう? だったら帰って良いよ」グレイスは近くの椅子に座って、「と言いたいところなんだけど、ちょっと調書づくりを手伝ってもらって良いかな? 5分くらいで終わるから」
そう言われたら協力くらいしよう。別にアレスは用事があるわけじゃないので、5分程度なら問題ない。
グレイスは若い警官に向けて、
「あとは僕がやるよ。キミは自分の仕事に戻って」
「……はい……」
明らかに不満ありな表情で、若い警官は取調室から出ていった。扉を乱暴に閉めているあたり、本気で怒っているようだ。
「すまないね……」グレイスがため息とともに、「最近は暴力的な警官が増えてね……注意はしてるんだけれど……」
「……まぁ警察ってのも、今は不満がたまる立ち位置だろうな。聖騎士団も活躍してるし」
「そうなんだよね……今の警察は正直言って、聖騎士団の代わりみたいな扱いだからね。現場に行ってガッカリされるなんてことも多いよ」
聖騎士団というのは国が実力者のみを集めて作った組織である。主に治安維持を目的に組織されたのだが、どうにも優秀すぎるのである。
聖騎士団がいれば警察はいらない。そう考えている国民もいるだろう。
聖騎士団にはとある英雄がいるのだ。その威光があまりにも大きい。
とはいえ……
「ちゃんと役割分担できてると思うけどな」
聖騎士団が解決してくれるのは大事だけだ。それ以外の事件はちゃんと警察が解決してくれる。
「そう言ってくれるとありがたいね」その笑顔にウソはない気がした。「さて……君との世間話も楽しいけれど……そろそろ仕事に移ろうか」
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