第3話 間に合うかなぁ……

 アレスは子供たちを開放しながら、


「災難だったな。もう大丈夫だぞ」


 まだ子供たちは怯えている様子だった。それも当然だろう。突然大男たちにさらわれて、売られそうになったのだから。


 一生トラウマとして残る可能性すらもある。それを考えると……


「悪いな……」思わず謝ってしまった。「本当は誘拐される前になんとかしないといけないんだがな……」


 犯罪行為を解決するより、抑制するほうが良い。


 子供たちが誘拐されて怖い思いをしたという事実は変わらないのだ。そうなる前に助け出したかったものである。


 ともあれ、


「まぁ、とにかく帰るぞ。親御さんも心配してるだろうからな」


 子供たちを引き連れて外に出ると、


「わぁ……」テルが空を見上げて、「どしゃ降りだねぇ……真っ暗闇だ」

「……そうだな……」


 敵のアジトを出るときに傘を探したが見当たらなかった。仕方がないのでずぶ濡れになっていくしかないだろう。


 さてそれぞれの家に子供達を送り届けようと歩き始めると、


「お……」アレスがとある人物を見つけて、「警察か……ちょうど良かった」


 アレスが見つけたのは制服を着た警察官だった。雨の中ずぶ濡れになりながら仕事をする姿勢には頭が下がる。


「この子供たちをちょっと警察署で――」


 雨宿りさせてほしい、と言いかけた瞬間だった。


「いたぞ!」突然警察官が叫んだ。「強盗を見つけた! こっちにいるぞ!」

「は……?」またなにか勘違いされたらしい。「ちょ、ちょっとまて……! 俺達は強盗じゃない……!」


 たしかに怪しい風貌をしているのは自覚しているけれど。人さらいに見えなくもないけれど。


 警察官は完全にアレスを強盗だと思っているようで、警棒を構えた。


「子供を人質に取りやがって……!」

「どっちかというと助けたんだが……」

「問答無用……! そっちの怪しい女もお前の仲間だろう……!」


 いきなりテルに飛び火して、


「あ、私も? まぁそりゃそうか」帽子を被って、床につきそうなブカブカのコートを着ている女である。怪しい。「しかし……どうするアレス? 逃げる?」

「……俺達だけなら逃げるけどな……」子供たちをおいてはいけないだろう。「……もう囲まれたし……」


 気がつけば多数の警察に包囲されていた。どいつもこいつも完全にアレスを犯人だと思っているようで、言い訳する余地はなさそうだ。


「なぁアンタら」アレスは言う。「ずいぶんと大人数だな。強盗でも出たのか?」

「それはお前だろう?」

「……聞き方が悪かったな……」


 ちょっと呼びかけただけでこんな大人数が集まるのはおかしい、という質問だったのだ。


 しかしまぁ……聞いたところで答えてくれるわけもないか。

 

 アレスは警察官の包囲網を観察してみる。


 30人はいるだろうか。テルと2人なら問題なく倒せるだろうが、子供たちに危険が及ぶ可能性がある。


 一応交渉してみる。


「俺達は強盗じゃないぞ。こんなことしてる間に、本物の強盗は遠くに逃げてるんじゃないか?」

「そんな口車には乗らない。適当なウソをつきやがって」

 

 真実なのだけれど。本気で本物の強盗を追いかけてほしいのだけれど。


 とはいえ言葉が通じないなら仕方がない。子供たちがいなければ無理してでも逃げていたが……


「しょうがねぇなぁ……」自分たちが疑われて済むのなら、「捕まえたいなら捕まえなよ。俺はやってないけどな」

「はぁ……」テルは肩を落として、「……バイト、間に合うかなぁ……」

「……どう考えても間に合わんだろうな……」


 ちょっと取り調べを受けて開放、ってわけにもいかないだろう。


 ともあれ2人は見ず知らずの強盗と間違えられて捕まったのだった。

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